4-3

 バカだったな。

 欠片ほども思っていないことを口にしたりして。


 舟が波の頂に持ち上げられ、刹那その動きを止め、そして浮遊感とともに波の谷間へと堕ちていく。もはや慣れ切ってしまったその繰り返しに身を委ねるチリは、今更ながらいっそこのまま海底までたどり着いてしまいたいような後悔に襲われた。


 森と浜のいざこざなんて、オレたちにはたいした問題でもなかったのに。

 そんな屁理屈を持ち出したりして、オレってどうしようもなく卑怯者で愚かなガキだったな。


 チリはかじかんだ手をなんとか持ち上げ、あのときと同じようにうつむいて頭を抱えた。


 どうして伝えられなかったんだろう、本当の気持ちを。


 耳元を吹き抜けていく風の音が少しだけ穏やかになった気がした。


 ずっとそばにいて欲しい。

 本当はそう思っていたはずなのに。


 いまになってやっとあのときの自分の心根が理解できた気がする。


 オレはたぶん……シオリカに甘えたかっただけなんだ。


 チリはゆっくりと顔を上げた。

 そしてまた竹魚籠を右手で持ち、舟底に溜まった水を緩慢な手つきで掻き出し始める。


 いち……に……さん……


 もしかすると自業自得なのかもしれないとふと思った。

 この真っ暗闇の嵐の海を漂流しているのも、あのときシオリカに酷いことを言ってしまった報いなのかもしれない、と。


 じゅういち……じゅうに……じゅうさん……


 会いたいな、あいつに。


 じゅうはち……じゅうく……


 会って謝りたい。


 にじゅうに……にじゅうさん……


 浅く、荒い息遣いがやけに鋭く鼓膜に響く。


 許してくれるかな。

 いや、やっぱ無理か。

 虫が良すぎる。


 にじゅうく……さんじゅう……


 でも、もし許してもらえたら、そうしたら……。


 寒さで奥歯がガチガチと鳴っている。


 さんじゅうよん……さんじゅうご……


 そうしたら、また一緒に……あの森に……。


 よんじゅう……よんじゅういち……


 そのとき、不意に違和感を感じてチリは動きを止めた。


 ……あれ、おかしいな。

 ……なんか、ずいぶん軽い気が。


 何気なく舟底にその手を遣り浚ってみる。

 するとさっきまで膝下にあった水面の線がいまはくるぶしの辺りまで下がっている。


 そうか。


 ようやく事態が飲み込めた。


 そういえば揺れがずいぶん小さくなっている。

 それで波被りも少なくなって、水が溜まらなくなってきたのか。


 おもむろに竹魚籠を置いたチリは暗闇の中、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませた。


 風も弱まってきている。

 この様子なら舟が沈むことはまずない。

 とすれば……。


 チリは重みのある目蓋を再びゆっくりと開き、それから慎重に肩を倒して爪先のさらに前方を手で探った。

 

 もしかすると帆を立てられるかもしれない。


 浮かび上がったその思惑に胸が高鳴る。

 凍えた身体にいく筋もの微細な電流が行き交った。


 指先に硬く丸みを帯びたものが触れる。

 手のひらを添わせるとそれは間違いなく帆柱だった。


 良かった。

 海に放り出されていなかった。


 ぎこちなく帆柱をつかみ引き寄せてみる。

 すると麻紐で縛り付けていた帆布が指先に触れた。


 チリは震える唇で「よし、使える」と小さく呟いた。

 できれば拳を天に向けて突き立てたいほどだったが、さすがにそこまでの体力は残されておらず、もう一度「ヨシ」と言葉を吐き出した。


 四つん這いになって今度は舟の中央にある柱穴を手で探って確かめる。

 それから舟をできるだけ横揺れさせないように帆柱を持ち上げ、その一端を肩に掛けた。

 そこでチリは動きを止め、いま一度確かめた。

 

 弱まったとはいえ、まだまだ風は強い。

 はたしてこの闇の中で舟を転覆させないように操帆できるだろうか。

 怪しいと謂わざるを得ない。

 突風を受け、帆が横打ちすれば舟ごと横倒しになってしまうかもしれない。

 チリはふたたび目を閉じてみる。

 肌の感覚は鈍く、風向きは捉え辛いがそれでもなんとなく総じて左受けの風が多い気がした。

 風受けの方向さえある程度分かっていれば、手に伝わる帆縄の感覚でなんとかできる自信はある。

 胸の裡で少しずつ明るさを増していく小さな希望にチリは目蓋を開き、逸る気持ちのまま、帆柱を肩から持ち上げようとした。

 けれど、そのときチリは至極単純で、それでいて最も重要なことを見落としていたことに気がついた。

 そしてたちまち愕然として腕の力が抜ける。


 いったい帆を立てて、どうするつもりなんだ。

 この暗闇の中、どこに舟首を向けろと?


 チリは持ち上げかけた帆柱をゆっくりと舟底に戻した。

 そしてひとしきりぼんやりと真っ黒な宙空を見つめ、浅いため息を落とす。

 

 やっぱりバカだな、オレ。

 

 そう自分を嘲笑うと追い討ちを掛けるように、さらに胡乱げな予感が鎌首をもたげた。


 それに、もしかするとそろそろ下げさげしおの時間帯かもしれない。


 大きく俯瞰すればムサシノの海は底の深いすり鉢状の湾になっている。

 けれどずっと昔、ザン爺の語りによれば古代文明が栄えていた時代にはもっともっと深く入り組んだ形をしていたらしい。

 その最奥はダイバのあたりであったといい、湖のように波穏やかな内海であったという。

 けれど度重なる大きな地震により両端の半島があらかた沈んでしまったために現在のような姿になったのだと聞いた。


 湾の縁は遥か南方からやってくる凄まじく速い巨大な海流クロシオがかすめていて、常に乱流によってかき混ぜられている状態にある。

 また潮流が海底を抉るその場所では群を作る小魚の餌が豊富に育ち、それを目当てにカチメジキやヤチマグロといった大型の回遊魚がムサシノの海に入り込んでくる。おかげで漁民は生きていくための糧を得られているわけだが、けれど漁を生業にする者たちにとって恩恵と危険は常に背中合わせだ。

 当然ながらムサシノ湾はその入り口に近づくほど潮の流れが複雑で、潮読みや操船にかなりの技術を要するようになる。

 また船もそれなりに大きく頑丈でなければ太刀打ちできない。

 なかでもダイバ沖、古代遺跡のニジバシ砂嘴の辺りでは乱流が巨大な渦をいくつも作り出しているため、浜長はまおさが持つ三十人乗りの大舟でさえ不用意には近づけない。

 当然ながらチリの舟などひとたまりもなく、その海域に入り込めばあっという間に海の藻屑と消えてしまうだろう。

 小舟はタワアまでと相場が決まっているのだ。

 もしその先に行こうものなら待つのは死あるのみ。

 好き好んでそんな馬鹿をやるものはいない。


 けれど……。


 チリはごくりと唾を飲んだ。

 今日の潮は……たしか陽が沈んでひと刻ほどで満潮を迎えたはず。

 ならばすでに下げ潮になっている頃ではないだろうか。


 いま、自分がムサシノの海のどの辺りにいるのか、全く分からない。

 荒れ狂う波に翻弄され続けて、その間に舟がどの方向にどれくらい流されたのか検討も付かない。

 けれどまだ湾の内側にはいると確信できる。

 なぜならそれは上げ潮だったからだ。

 ニジバシの外から流れ込んでくる大河のような潮流。

 あの流れに逆らって外洋に出てしまうことなど絶対にない。


 しかし、下げ潮となれば話は完全に逆だ。

 ダイバ付近、湾から出ていく奔流に逆らって進むなど三本マストの大船でもよほど良い風向きでなければ困難を極める。

 しかもエビス波の日はさらにその流れが大きく、疾くなる。

 もしその潮に少しでも触れればチリの小舟など木の葉のごとく流されて渦に呑まれるか、運よくそれを避けられても外洋に放り出されて一巻の終わりだ。


 もし、ここがすでにダイバの近くだとしたら……。


 麻痺していた恐怖が再び身体中を駆け巡った。

 チリは闇雲に視線をあちこちに向ける。


 なにかないか。

 ここがどこなのか、推測できるなにか。


 けれどその暗闇にはやはり一点の光もない。


 風と波はさらに弱まってきていた。

 ひっきりなしに舟縁に打ち付ける波音が鼓膜に潜り込む。

 ぐっしょりと濡れた麻の貫頭衣が皮膚にへばり付いていて、体温をさらに奪っていくのが分かる。

 見上げればそれが空であるとうっすら気づかせてくれるだけの闇。

 それらがチリの不安を限りなく増幅させていく。


 体が震え始めた。

 寒さだけのせいではない。

 通り過ぎてしまったはずの恐怖が立ち戻り、瞬く間にチリの全てを支配した。


 死。


 ひと呼吸かふた呼吸先にもそれが待っている予感がする。


 死ねない。

 

 ザン爺を残しては死ねない。


 死にたくない。


 もう一度ムサシノの浜に戻りたい。

 漁師仲間と悪ふざけの会話がしたい。

 

 そしてシオリカに会いたい。


 けれど……。


 何度も胸の奥に押し留めたはずの絶望があぶくとなって浮き上がってくる。


 チリは低く呻いた。

 そしていまにも弾け散りそうな理性の欠片でもう一度だけ深闇を見渡す。


 やはり何もない。

 あるのは風と波と舟縁の音。

 そして濃厚な潮の匂いだけ。


 けれどそれならいっそ破れかぶれだ。

 帆を立てて、風向きに逆らわずに進んでみるか。


 怖気に駆られながら、チリはそれもなかなかの一案かもしれないと思った。


 もしそれで結果的に死を早めることになっても、死地に流されていく間なにもせずにじっと恐怖を感じ続けるくらいならばいっそその方が楽かもしれない。


 チリは衝動的に舟底の帆柱に手をやった。

 しかしそこでなけなしの理性がまた微かな声を上げる。


 本当にそれで良いのか。

 助かる可能性をみすみす手放してしまうことになりはしないか。


 するとその自問に答えるようにずっと忘れていた父の言葉が甦った。


「危険なときほど心を鎮めろ。そして注意深くなれ。そういう時は自分を捕食魚に狙われた獲物だと思え。無闇に戦おうとするな。岩陰に隠れて息を潜めるんだ。そのうちに突破口は必ず拓ける。いいか、チリ。決してそれを見落とすな。そして現れたら絶対に目を離すな。見失うな。あとはガムシャラにもがけ。死から逃れるにはそれしかない」


 なぜ、忘れていたのだろう、こんな大事なことを。


 答えはすぐに浮かぶ。


 そうだった。

 それは父、ソルトがドラグイ討伐に出向く直前に語った言葉だった。


 あの日、父は帰らぬ人となった。

 そしてその言葉がそのまま遺言になってしまった。

 チリにとってそれは呪いだった。

 生きて帰れなかった父が遺したその生き残るすべ

 子供ながらに決めつけたのだ。

 信じられるものではないと。

 結果がそう物語っていると。

 だから信じたくなかった。

 だから無理やり忘れようとして、そのまま記憶の底に埋めていた言葉だった。


 けれどいまなら分かる。

 父には命を捨てる理由があったのだ。

 それはかけがえのないものを守るため。

 命を賭して守らなければならないもの。

 それは云うまでもなくもちろん母であり、ザン爺であり、そしてムサシノの浜であり、守護すべき最たる存在は血を分けた分身、チリであったはずだ。


 そしてその言葉もまたチリを守るために伝えたものだったのだ。

 海を相手にしているかぎり、生死の境目に対峙する機会は避けられない。

 実際、ムサシノの浜でも年に数人は漁に出たまま帰らなくなる者がいる。

 だから漁師は注意深く天候と波を読み、その情報を共有してできるかぎり危険を遠ざけている。

 けれどそれでも知らず死地に足を踏み入れてしまうことは往々にしてある。

 ではそうなったとき、どのように心を保ち、どう行動すれば良いのか。

 父が残した言葉はまさにいまこの時のためのものだ。

 チリの頭は楔を打ち込まれたようにしばし痺れた。


 やはり死ぬわけにはいかない。


 チリは目を閉じ、できるだけ大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐いた。


 落ち着け。

 見極めろ。

 突破口は必ずどこかにある。

 注意深く観察しろ。

 どんな小さなものでも見落とすな。

 死んでしまうその瞬間まで生き残る方法を探れ。


 チリは心にそう刻み込んで目蓋を開いた。


 するとさっきまでの動揺が嘘のように消えていた。

 そして穏やかさを取り戻していく波音が自分に優しく語りかけているようにさえ思えた。


 大丈夫だ。

 必ずどこかに助かる道がある。

 なぜだろうか。

 確信に近いそんな予感がしてチリはゆっくりと視線をめぐらせた。


 するとそのとき、左肩口に向けた瞳が一閃をとらえた。


 え?


 ほんの一瞬のできことだった。

 けれどなにかが光ったように思えた。

 

 チリはできるかぎり目を見開き、その方向の闇を見つめる。

 けれどなにもない。

 見間違いだろうか。

 錯覚かもしれない。

 暗闇に慣れ切った目はありもしない光を見てしまうこともあると聞いたことがある。


 落胆が押し寄せ、けれど目線を切ろうとしたその刹那、またなにかが光って消えた。

 青白い光だった。

 紛れもなくこの瞳がとらえた現実の光。

 錯覚でも幻影でもなんでもない。


 突破口。


 あれが……、あれがそうなのか。


 これまで見たこともない青く白く煌めくような色の光。

 強いて喩えれば海岸に波が打ち寄せるたびに仄かな光を放つ夜光虫。

 あの色に少し似ている。

 けれどそんな弱々しい光ではない。

 一瞬しかとらえられなかったけれど、それはずっと遠くからまっすぐに突き進んできた強烈な光のように思えた。

 ただしそれが何者によって放たれた光なのか、自然のものなのか、人工的なものなのか、あるいは陸地からやってきたものなのかさえ判別のしようもない。

 チリが光が見えた方向にしばし呆然と目を向けていると風音に父の声が紛れ込んだ。


 目を離すな。


 チリは我に返った。

 そして急いで足下の帆柱をつかみ、持ち上げる。


 見失うな。


 今度は鼓膜の奥で父の声が響いた。


 そうだ。

 これがきっと最後の突破口。

 絶対に逃してはいけない。


 チリは両足の裏で柱穴を挟み込む。

 そして弛れた腕に精一杯の力を込め、何度か失敗しながらもようやく帆柱の根元をそこに差し込んだ。

 するとそれだけで息が荒くなり、頭がクラクラして気を失いそうになった。

 体を起こしていられなくなったチリは舟底に背を預け、息が鎮まるのを待った。

 耳元でチャプチャプと水が跳ねる音がした。

 しばらくすると閉じた目蓋の裏に不意に父の姿が浮かび上がった。


 それはむしろに横たわる変わり果てた姿ではなかった。


 あとはガムシャラにもがけ。


 そう云って豪快に笑う、チリが大好きだった父の姿だった。


 だよな。

 倒れてる場合じゃないよな、父さん。


 心の裡でそう応えたチリは呻きながら体を起こした。


 そして暗闇に目を凝らして、願う。


 頼む、光ってくれ。


 弱まったとはいえ、未だ強い風がチリの背中を押す。

 舟は上下に大きく揺れて、さらに帆柱を立てたせいだろう、さっきよりも横揺れがひどくなった。


 光よ頼む、もう一度姿を見せてくれ。

 頼む、ラティスの女神様。

 オレに冥加を与えてくれ。


 そのとき左真横にキラリと光が瞬いた。


 瞬間、背筋に電流が走った。


 叶った。


 同時にチリは帆柱に抱きつくようにして立ち上がり、畳んだ帆をくくっていた麻紐の結び目を手探りで解いた。

 すると垂れ下がった帆が風を受け、バフッと音を立てて開く。

 

 方向は分かった。

 風は真後ろから。

 光は左だ。


 チリは横揺れに耐えながら慎重に腰を下ろした。

 そして帆縄を引き、向きを変える。

 舟首が波を弾いて、旋回する感覚が伝わってくる。


 いいぞ。

 この程度の風ならあしらえられるし、なんとか波も乗り越えられそうだ。

 

 けれど……。


 心配なのは自分の体力がほとんど限界にあることだった。

 体は冷え切って、腕に力は入らず、意識も朦朧としている。

 このままではまた眠ってしまいそうだと感じたチリは傍に置いていた石剣を太腿で挟んで語りかけた。


「頼む、オレを見張っててくれ」


 するとその願いに呼応するように石剣がふたたびぼんやりと仄かな光を纏い始め、それに伴ってチリの腿を焼くほどに刀身が熱を帯びる。


 あちッ。


 けど、助かる。

 その調子で寝そうになったら起こしてくれよな。


 礼を伝えるように視線を落とすと石剣に刻まれた古代文字が白い光で浮き上がって見えた。


 こいつは本当に何なんだろうな。

 

 思わず首を捻ったチリは、けれどそんなことを考えている場合ではないとすぐに気を取り直して帆縄を持つ手に意識を集中する。

 そして風を斜め後ろの受け流すように操りながら、舟の進む方向に光を探す。


 光は気まぐれだった。


 短時間のうちに何度か瞬いたかと思えば、その後はなにも光ることのない深闇だけの時間が長く続いたりした。

 その度にチリは祈った。

 頼む、光よ、現れてくれ。


 風向きが少しずつ変化しているのだろう。

 下げ潮に舟が流されている影響もある。

 舟首を向けていたはずの光が次に瞬くと右手に見えたりしてチリは焦った。

 だからチリは光をとらえる度に帆の向きを調整する必要があった。


 ラティスの女神様。

 できるだけ追い風にしてくれないかな。


 事あるごとに祈るそんな自分にチリは苦笑を禁じ得ない。

 

 こんなときばっか頼みごとして、女神様もさぞ迷惑だろうな。

 そういえば最後に浜社はまやしろにお参りしたのっていつだっけ。

 ああ、たしか春の豊漁祈願のときだったか。

 ずいぶん行ってないな。

 生きて帰れたら毎日でもお参りに行くから女神様、どうか今回だけは助けてください。お願いします。

 

 そんな殊勝なことを考えていると眠くなってきた。


 そこで今度は目線を下げて石剣に祈る。

 

 頼む、熱をくれ。

 太腿を焼いたっていいから眠気を覚まして欲しい。


 すると剣はまたぼんやりと輝き、思惑通りに鋭い熱を放った。


 チリは本当に皮膚を焼きそうなその熱さをこらえながら、自嘲する。 

 

 もう、マジでオレ情けねえ。

 頼んでばっかだ。

 自分の力だけじゃ、なにひとつままならない。

 なんでも独りでできるようになったなんて思い上がりもいいところだった。

 オレってこんなにも小さかったんだ。

 情けねえ。

 けど……。

 今は頼れるもんがあればなんだって利用したい。

 力を貸してほしい。


 オレは……まだ生きたいんだ。


 頼む、誰か。

 オレを助けてくれ。


 そのときまた舟首からややずれた方向で光が瞬いた。

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