3-13

「たしかに見たこともねえ強力な磁石らしい。けどよ、そんなもんで本当にエルキが作れるのか」


 ゼノの問いにシオリカはしっかりとうなずく。


「保存状態の良いカーリオを分解していくとバツテリと呼ばれる四角い箱のような部品が残っていることがあります。おそらくはエルキを保存するための器だったようなのですが……」


「エルキを保存するだあ。そんなことができんのかよ」


 素っ頓狂な声を上げたバルタをヨシアは「うるせえ」と肘鉄砲で小突き、シオリカはそれを横目に見て微笑んだ。


「ええ、古代では当たり前の技術だったようですよ。その証拠に全てのカーリオにそれらしき箱状の部品が残っています」


「やっぱ、古代人やべえな」


 バルタの言葉に今度はヨシアとついでにゼノもうんうんとうなずく。

 シオリカはそんな彼らを見回してから説明を再開した。


「そうなると当然、バツテリにはエルキが送られていたはずです。そこで根気よく調べてみるとバツテリから伸びる導線のようなもの、相当に朽ちてほとんど痕跡しか残ってませんでしたけど、細い金属の線があったんです。そしてそれはカーリオの最も重要な動力中枢部分、つまりエンジンのすぐ近くに行き着いていました」


「おう、エンジンなら知ってるぜ。一度だけ見たことがある」


「マジすか、ゼノさん」


 目を丸くしたヨシアとバルタに向けてゼノは誇らしげに腕組みをした。


「ああ、兵役中はエンジンやモタルについての講義科目もあってな。そんときに王宮技師が教壇に置いてあれやこれやと説明するんだ。とはいっても教室はずいぶんと広いから遠目にこれぐらいにしか見えやしねえ」


 そういってゼノは親指と人差し指の隙間に目をすがめて見せた。


「でも、そんならゼノさんはエンジンやモタルが手に入れば舟に取り付けたりとか……」


「あほう。そんなおつむがありゃあ、いまごろは王宮で士官でもやっとるわい、ガハハ」


 そう笑い飛ばしたゼノに二人は愛想笑いを返し、シオリカはひとつわざとらしく咳払いをした後、話を継ぐ。


「えっと、それで、そのエンジンのそばにあった部品をなんとか分解して調べてみるとこれと同じようなものがあったのです」


「これって、これか? コイールと磁石?」


 指差したヨシアにシオリカは再びうなずいた。


「実際にはカーリオの部品はもっと複雑だったのですが、突き詰めればこれでエルキを作り出すことが可能だと分かりました」


「えっと、じゃあもうこれでエルキが出来てるってわけか」


 バルタが首を捻った。

 シオリカは首を横に振る。


「いいえ、このままではまだ発生できていません。動かす必要があります」


「動かす?」


 ゼノが不審げに言葉をなぞった。


「ええ。不思議なのですが磁石をコイールの近くで動かすとエルキが発生するみたいなんです」


「へえ、そんな簡単なことでエルキはできるんだなあ」


 ヨシアが首を捻りながら感嘆した。


「じつは他にもエルキを発生させる方法はいくつかありますが、現時点で私が知る中ではこれが一番大きなエルキを作り出せます」 


「他にもって……。嬢ちゃん、あんた大丈夫か」


 そのいかつい顔に不安げな表情を浮かべたゼノにシオリカは微笑んで肩をすくめてみせた。


「監視のことですよね。大丈夫だと思います、今のところ。たぶんですけど」


 だんだん声を窄ませていくシオリカにその場にいる全員が気遣わしげな顔色になった。そして刹那、沈黙が立ち込め、それを振り払うようにシオリカは精一杯快活な声を振り絞った。


「まあ、そんなことは今どうでもいいんです。それより早くこれを完成させてチリがいる沖にエルキを届けましょう」


「そ、そうだな。今はそんなこと考えてる場合じゃねえ」


 ゼノが相槌を打つとバルタとヨシアもそろって首を縦に振った。


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