3-12
しばらくするとそれは大人がようやくひと抱えできるほどの真四角の枠組みとなった。
そして最底部の台座に大きなハンドルを取り付けてふうっと息を吐いたシオリカに腕組みをしてその様子を見つめていたゼノがボソリと口を開く。
「なあ、それが発生器かい」
「いえ、これはまだ骨組みです。ゼノさん、すみませんが後ろに置いてあるそれ、持ってきてもらえませんか」
「おう、これか」
ゼノはその大きな麻布包みを片手で持ち上げようとして軽く呻いた。
「……と、こりゃあなかなか」
「そうなんすよ。めちゃめちゃ重いっしょ。それをオレ、森から背負ってきたんすよ。もお、肩が痛えったら」
バルタがそう言って得意げに肩を上下させるとヨシアがその肩をおどけて揉んだ。
「いつもは大漁網でも一人で十分だって力こぶ出して息巻くくせに、案外たいしたことねえんだなあ」
「んだと、こら」
バルタが身をゆすってその手を振り解くとヨシアは後退りながらもニヤけた顔で挑発する。
「おまえら、もっかい痛い目にあいてえのか」
ゼノはその彼らを横目で睨みながら抱えたそれをテーブルの端にドスンと音を立てて置いた。
「けどよ、ほんとに岩みてえに重いな。なにが入ってるんだ」
「コイールと磁石です」
三人が首を傾げる前でシオリカが布袋の口を開くと黒い針金をぐるぐる巻きにした大きな筒が姿を現した。
「なんだこの糸巻きのお化けみてえのは」
「これがコイールです。銅線を何重にも筒状に巻いたものです」
「ほう、さすがは森の工房だ。銅をこんな風に細く加工できるなんてなあ。で、磁石ってのは」
ゼノの問いにシオリカは大きく息を吸うと両腕に思い切り力を込めてコイールの中心に埋め込んでいた円柱状の物体をゆっくりと引っ張り出した。
「……これが……磁石です」
「バカみてえに重かったのはそいつのせいだな」
いまさらながらに肩を擦ってみせたバルタにシオリカはうなずく。
そして慎重に磁石をテーブルに置きながら言葉を継ぐ。
「まあ……これだけで……20キロルはありますから」
「マジかよ」
呆れたバルタをヨシアが指差して笑った。
バルタはその指をうるさそうに押しのけながら怪訝に聞く。
「でもよ、磁石って普通はそんなに重いもんでもねえだろう。ガキの頃にオレも遺跡で拾ったことあるけど、手のひらに乗るぐらいの大きさしかなかったぜ。それに力も弱くてよ。せいぜい砂鉄がくっつく程度だったな」
「それはきっと保存状態がよくなかったのでしょうね。あるいは磁力は磁石の種類にもよるのでそのせいかもしれません」
そう答えたシオリカは少し痺れてしまった指先を振った。
「保存? ……種類?」
ヨシアが不思議な呪文でも聞いたみたいに首を傾けた。
「ええ、発掘される磁石には金属組成の異なる種類がいくつかあるみたいですし、磁力は保存温度などでずいぶん保たれ方が違うようです。ちなみにこの磁石はとても冷たい場所に眠っていたものです。どうやら磁石はそういう場所で保存すると磁力を失いにくいみたいで、しかもこの磁石はとても強力で、えっと、試しにこれを……」
シオリカはたまたま床に落ちていた大きめの舟釘をそれに向けて軽く放った。
すると舟釘は放物線を描いて落ちていく途中、ありえない直線的な動きに変わり磁石に引き寄せられる。
そして次の瞬間、キイーンという甲高い音を鳴り響かせた。
その奇術のような現象に三人は一様に瞠目した。
「バルタさん、それを剥がしてみてください」
「お、おう」
舟釘を指で摘んだバルタは、けれどすぐに顔色を変えて今度は拳で握った。
「は、剥がれねえ……」
「おい、冗談だろ」
ヨシアもバルタを押しのけるように手を伸ばして舟釘をつかむ。
「本当だ……」
絶句する二人をゼノは身じろぎもせず見つめ、それから不審げな表情を見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます