第56話 引っ越し

 城を放免され、五平とお涼改め八重が長屋に戻ると、八重の改名はすでに皆の知るところであった。


「とある旗本がお涼を見初め、この長屋に住むことを突き止めたため、居を移しお涼の名前を『八重』と改めることにした。『お涼』である事がばれると旗本にまたつけ狙われる故、この名前は今後一切他言無用」

 良庵の流したこの噂は瞬く間に長屋を駆け巡っていたのである。


「五平ったらとうとう城勤めを首になったって? 全くこの大事なときにそんなことでお八重ちゃんを護れるのかね?」

「怪しいやつらが来たら、塩撒いてやるよ!お八重ちゃんは渡すもんかね!」

「困ったらいつでもおいで! なぁに、良庵先生の屋敷に身を寄せるんだろ? 長屋暮らしと変わらないさ!」


 長屋のおばちゃんらに見送られ、わずかばかりの荷物をもって、二人は良庵邸の離れに移り住んだ。

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