第55話 閉廷

「あっ」

 刀を振り下ろす良庵の動作に五平の喉から声が漏れる。


 お涼の後ろ手を縛る縄がはらりと落ちた。


「今の一振りで戸隠のくノ一お涼は処分され申した。三人ともしかと立ち会ったな?」


「見届けましてございます」

「この耳で確かに、最期の声まで聞き届けやしたぜェ」

「紛う事なく、お涼殿の匂いは潰えてございます」


 阿ノ国の名君、忠親は大きく頷いた。

「真田三勇士の証言、各国に即知らしめよ」


 小うるさい老中が畏まって席をたつと、忠親はお涼を見下ろし下知を下した。


「聞いての通り、戸隠のお涼は誅された。今後一切戸隠の里との連絡は、とることあたわず。してこの先はいかんとする?」


 忠親に話を振られた良庵はあごひげをさすって思案した。

「一先ず名を『八重』と替えましょう。

 五平は城勤めを解き長屋を離れ、二人共に私の監視下で暮らしていくが良いでしょう」


 続けて猿の縄を解きながら良庵は言った。

「こちらの御仁ごじんは城に残し、真田くノ一の指南についていただきましょう。お涼さんを育てた腕前、養育係として生かすが我が藩にとっても得策。監視をするついでに、手ほどきを受けられれば、まさに一石三丁」

 若いくノ一らに手を焼いていた藤二は、それを聞いて大きく頷いた。


「ふむ、ならばそのように手はずを整えよ。これにて一件落着!」

 自ら閉廷を宣言する忠親に、五平もお八重も地べたに額を擦り付けた。

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