第50話 直接対決
「惑うたか、鬼八」
ゆらりと体を揺すり、お涼は怒りを蓄えた低い声を出した。
「惑うてなどおらぬ。答えは明白、力こそ全てよ」
「ならば、そなたはすでに忍に非ず。戸隠を名乗るなどおこがましいわ!」
鬼八は苛立ちを隠そうともせず、お涼にぶつける。
「黙れ! 我はあやめ様の遺志を継ぐ者。侮辱は許さぬ!」
「母の名を口にするな! 汚らわしい!」
お涼の声が暗い森にこだまする。
「吹かれて散るは
義を失いしは凶賊に同じ。信なき遷移は絵空事よ!
そなたの
いざ、推して参る!」
お涼は千本※ を構えて鬼八の鎖鎌の射程ギリギリの距離を保ったままグルリと鬼八の周囲を旋回した。
「お前では俺に敵わぬと、何度言ったら分かる?」
鬼八は薄ら笑いを浮かべると、聴覚を研ぎ澄ませた。
走りながら武器を扱えば、金属音は消しきれない。僅かな音を拾って暗闇から飛びかかる千本を鬼八は鎖鎌で叩き落としていく。
(仕込み武器を出したと言うことは、すでにクナイは使い切ったな。このまま補充をさせなければ、残る武器は足袋に仕込んだ小刀と
額めがけて飛んできた棒手裏剣を、鬼八は半身で交わし、わざとよろけて隙を作る。
お涼が足袋から小刀を引き抜いた。
(やはりな。あやめ様と同じ! これでお前は丸腰だ!)
小刀を構え鬼八の
「かかったな、お涼!」
ギリギリと捻りあげられ、お涼の細腕から小刀が落ちた。
「今度こそ策はつきたな!」
お涼の右腕を掴み高く頭上に引きあげ、勝ちどきをあげた鬼八の目がカッと見開かれた。
「ば……馬鹿な……」
※千本=忍者が護身用に隠し持つ道具。針のように細く鋭いのが特徴。
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