第46話 鬼八vsお涼

 鬼八は恍惚の表情で語りだす。 

「あやめ様の強さはその機動力に有る。あやめ様はご自身の動きを最大限に活かすため、最小限の数しか忍具を持たない」

 鬼八は足元に落ちたお涼のクナイを手に取った。


「お前の忍具もあやめ様と同じ。極限まで薄く、軽くした殺傷能力の低い武器を、寸分違わず一撃で敵の急所に撃ち込むことにより最小の手数で敵を倒す」

 鬼八は口の端に笑みを浮かべた。


「だがその少ない仕込みでいつまで闘えるかな?」


「お涼様!」

 背後から猿の声がした。


 咄嗟に半身を引けば、視界の端に写った祠からはちまきをした兵士たちが次々と飛び出してくるのが見えた。


「敵援軍が到着した模様!」

 先陣の追っ手兵を全て倒した猿が、お涼の背中を護るように立ち、沸き続ける大群に睨みを効かせる。


「憂の国は大国だ。これを後ろ楯に戸隠は国内随一の忍の里となる」


「何人にも媚びへつらわぬのではなかったのですか?」

 お涼は鬼八を問い詰める。


「媚びたりせぬ。対等の立場で行う取引よ。我らの力の代償に、こちらは奴らの数を利用する」


「そうして他国に攻め入ろうと言うのですか?」


「弱い者は強い者に吸い上げられ、守られてりゃいい。弱い癖に牙を向くから痛い目を見るんだ。自分より強い者に歯向かうなど、身の程知らずの愚か者だ」


 お涼は大きくかぶりを振った。

「話になりませぬ。巻物をこちらへ渡しなさい!」


「話を聞いてねぇのはお前の方だ。弱い癖に俺に逆らうな。

 どう見てもこの状況、お前ら二人に打つ手はねぇだろうが! 解ったか、これが力の世界だ。俺の求める磐石の世だ!」


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