第43話 噛み合わぬ意志

「そんなことのために人を殺め、戦を煽動するなど、正気の沙汰ではありませぬ!」

 お涼に罵倒され、鬼八の顔から笑みが消えた。


「そんなこととは、聞き捨てならねぇな」

鬼八は鉤縄を投げ捨て、その手に忍刀を構えた。


「宗兵衛はくだらぬ大義を掲げ、あやめ様を見殺しにした」


かしらは伊の国の民を守ろうとしたのです」


「まるで我らを使い捨てにするような依頼を甘んじて受け、あやめ様の犠牲の上に任務をやりとげるかしらになど、忠義を果たせるか!」


「忍とは駒たる者! 母は自らの意思で任務に向かったのです!」


「俺は諸国に尻尾を振ったりせぬ。強い者を集め、最強の里を作る。権力には力で対抗し、誰にも媚びへつらうことのない最強の軍団を作り上げる」


「力で押さえ込めば、力による反発を食らうだけです!」


「共に来い、お涼。あやめ様の無念、お前がはらすのだ!」


「…………」


 お涼は目の前の鬼八に薄ら寒いものを感じ、黙り込んだ。


(話が……噛み合わない)


 お涼には最早、目の前の鬼八が意思の疎通をはかれない異国人いこくびとのように思えてきた。

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