第41話 佐吉の覚悟

「動いた!」

 義平は目を開き、音のする方へ手裏剣を投げる。

 揺れる下草に手応えはない。

 義平は続けざまに手裏剣を投げながら木の枝の上を移動する。


(見つけた!)

 大振りの枝に黒い影を発見した義平は鎖分銅をうち放つ。

 大きくしなるような弧を描き分銅は大木に巻き付いた。


「キィン!」

 高い金属音に義平はギョッとする。

 先を行く二人に聞こえていないといいが……


 鎖分銅が捕らえしは、佐吉の脱ぎ捨てた忍頭巾。

 佐吉本体は義平の死角より短剣で切り込んだが、真田三勇士が一人義平は人並外れた聴力を誇る。

 奇襲は見破られ、佐吉の短剣は義平の左手に仕込まれた鉤爪かぎづめに弾かれた。


「この程度の力で泰平の世を乱そうなんざァ笑わせる。戦場いくさばじゃあ力が全て。戦果を上げる夢でも見たかィ?」


 鉤爪かぎづめを佐吉の喉元に当てて、義平は苦々しげに問い詰めた。


「知ってるとも。力が全て。そう、アニキの独壇場だ。泰平の世? そっちこそ笑わせる。お前らの言う泰平の世ってのは強いもんが弱いもんから搾取する世のことか?

 雀の涙ほどの賃金でこき使われ、薬も買えずに親がおっ死んで食うに困って芋をりゃ、棒で打たれて片端かたわにされる世のことか?

 俺のような半端者はんぱもんをこの世のやつらは見限った! そんな俺を拾ってくれたのはアニキだけだ!

 俺はアニキの造る世が見てみたい。お前らの言うお前らのための泰平なんざ、うんざりだ!」


 黙って聞いていた義平は暗い目で佐吉を見つめると、一息ひといきにその喉を掻き切った。 


「ドシュッ」

 鈍い音が響き、色の無い森に血生臭い空気が広がる。


「……ア、アニキ……すまね……ぇ」


 ヒューヒューと喉元から息を漏らしながらたった一言そう呟き、佐吉はドサリと地に落ちた。


「それでも戦は防がにゃならねェ。……赦せ」

 佐吉の亡骸にそっと手を合わせ、義平は猿とお涼を追った。

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