第40話 ネズミと犬

 宵の口、うっすらとまだ光の届く森の入り口で義平は先を走る忍の姿を捉えた。

「ありゃあ、城下でコソコソ何か探ってやがったネズミじゃねェか?」

 義平はクナイを構えると忍に向けてこれを放つ。


 後方からの殺気にいち早く気づいた忍は横っ飛びでクナイを避け、大枝へと跳び退さぶ。

「暴れ馬騒動まで起こして逃げ仰せたってェのに、こんなところまでわざわざ捕まりに来たのかィ?」


「おっ、お前はあのときの……チッ、よりによって真田の犬が嗅ぎ付けてくるとは!」

 義平に向けて牙をむくこの単身の忍。

 鬼八の影、佐吉であった。


「先の二人の邪魔立ては不要。こちらが探しに探していた巻物の在処への案内人だからよゥ。それよりあの二人を追ってるおめェさんは、憂ノ国側の間者ってェことだわなァ」

 義平はタンッと枝を蹴り、佐吉との距離を詰める。

「ちょいと話でも聞かせてもらおうかねェ」


 佐吉はスッと身を隠し、人の手の入っていない下草に身を隠す。


「時間稼ぎのつもりかィ?」

 義平は目を伏せ耳をそばだてる。


 草むらで音もたてずに移動するのは難しい。この場は目よりも耳がものを言う。


 佐吉は流れる汗もそのままに、草むらから義平の姿をとらえていた。


 もとより佐吉は諜報要員、戦闘能力は人並み以下。そんなことは自分が一番よく知っている。


 (猿とお涼、忍の技は超一流。同じ超人のアニキとて、二対一では分が悪い)

 しんがりから佐吉が挟み撃ちをすることで、隙が生じればと付いてきたのが仇になった。


(猿とお涼はアニキに任せるより他ない)

 佐吉はギリッと奥歯を噛み締める。


(かくなる上は刺し違えてでもこの真田の犬をここで止める!)

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