第39話 敵陣へ
忍び装束に着替えたお涼は、最短距離で憂ノ国の国境へとたどり着いた。
「これよりは敵陣、十分お気をつけください」
猿の進言にお涼は黙って頷く。
日は傾き、西の空には大きな太陽がまるで落ちる寸前の線香花火のような橙の球体となってテラテラと周囲を照らしていた。
「参りましょう」
猿は木の枝を蹴って暗い森に潜り込んだ。
(もう二度と、戻れないかもしれない)
お涼は阿ノ国領を一度振り返り、すっかり濃紺に染まった空に五平の顔を思い浮かべた。
五平様は菩薩のようなお方じゃ。戦の辛苦など、つゆほども似合わぬ。美しい阿ノ国の領土を荒らさせはせぬ。心優しい民に焼き討ちの憂き目など見せはせぬ。
この命賭してでも、全て護ってみせる!
決意も新たに、夜目が利くかのような速度でお涼は森に消えていった。
「くぅ、キツィ! こんなもん全力疾走じゃねェか!」
猿とお涼をこっそりと尾行するはずの義平だったが、置いていかれないようにするのが精一杯の状況に思わず呼吸を荒げていた。
国境でお涼が振り向いたのに気づき、義平は慌てて草むらに身を潜める。
「夜の森に入る気かョ……全く正気の沙汰じゃねェわな」
呼吸を整える義平の目に、忍びが一人お涼のあとを着けていく姿が飛び込んできた。
「
義平はあとから来ると信じた藤二たちの為に印を残すと草むらを掻き分けて不審な忍を追った。
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