第38話 決意

 強い意思をはらんだ漆黒の瞳を覗き込んだ猿は小さなため息を漏らした。


「あやめ様と同じ目をしておられる。こうなっては止めても無駄にございますな」

 猿は立ち上がると、お涼に一振りの短剣を差し出した。


「あやめ様が宗兵衛様に贈られた短剣です。ご両親の形見の品ゆえ、お涼様がお持ちください」

 お涼は猿の手からその短剣を受け取った。

 ずしりと重いその剣の柄には、あやめの花が彫刻されていた。


「さぁ、参りましょう」


「じぃ……?」

 猿は腹を括ったかのような清々しい顔でお涼を見た。


「あやめ様にはお涼を頼むと命を受けておりますゆえ。お供させていただきます」

「なっ、なりません!」


 慌てるお涼を諭すように猿は続ける。

「鬼八はおそらく戸隠の里から真っ直ぐ憂ノ国を目指しておるはず。憂ノ国の城には忍び専用の隠し通路がございます。

 先回りして通路の入り口で鬼八を捕らえるが必然!」


 お涼はそれを聞くと、目を見開いて固まった。

「では……その通路まで案内してください。必ずや私が、鬼八を止めて見せましょう!」

 猿はコクリと頷くと、お涼を従えて駆け出した。


 ***

飛丸とびまる、急ぎ藤二らにこいつを届けてきてくれ!」


 用心深く、猿とお涼が森に消えるのを確認した義平ぎへいは、鳥笛で呼んだ鷹の足に文をつけ、空へと放った。


「二人とも凄まじい身体能力だったなァ……いやァ参った、追いつける気がしねェ」


 弱気な台詞とは裏腹に、義平は勢いよく二人を追って飛び出した。

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