第37話 真実

かしらが?」

 お涼の脳裏に忌まわしい記憶がよみがえった。


「不名誉な烙印を押され、崖から突き落とされたとき、戸隠のお涼は死にました」

 拗ねるように目を伏せるお涼の手を、猿は強く握った。


「宗兵衛様はお涼様を里から逃がすため、あのような手段を取られたのです」


「……私を逃がすため?」

 猿の剣幕に押されてお涼は眉根を寄せる。


「宗兵衛様亡き今、次の里長に就くために鬼八めがお涼様を手にいれようと狙っております」

「鬼八が、なぜ私を?」

「お涼様が宗兵衛様とあやめ様の娘であるがゆえ」

「私が……頭の娘?」

「左様、全てはお涼様を鬼八の魔の手から逃す為に、宗兵衛様の仕込んだ策でした。しかし、全てを見破った鬼八に宗兵衛様は討たれ、巻物は奪われました」

「私が阿ノ国から盗み出した巻物のこと?」

「そうです。鬼八は巻物を憂ノ国に持ち込むつもりにございます。

 このまま行けば、憂ノ国はすぐにでも阿ノ国に攻め入るでしょう」

「そんな……戦が!?」

「戦を煽動するが鬼八の狙い。お涼様、この地は間もなく戦場となりましょう。どうかお逃げくだされ!」


 黒い瞳にうっすらと涙を浮かべて、お涼はしばらく放心していた。


 やがて気丈に顔をあげると、お涼は西の空を見上げた。

「この地を戦場などにさせはしません。鬼八を止め、巻物を奪還します!」


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