第37話 真実
「
お涼の脳裏に忌まわしい記憶がよみがえった。
「不名誉な烙印を押され、崖から突き落とされたとき、戸隠のお涼は死にました」
拗ねるように目を伏せるお涼の手を、猿は強く握った。
「宗兵衛様はお涼様を里から逃がすため、あのような手段を取られたのです」
「……私を逃がすため?」
猿の剣幕に押されてお涼は眉根を寄せる。
「宗兵衛様亡き今、次の里長に就くために鬼八めがお涼様を手にいれようと狙っております」
「鬼八が、なぜ私を?」
「お涼様が宗兵衛様とあやめ様の娘であるがゆえ」
「私が……頭の娘?」
「左様、全てはお涼様を鬼八の魔の手から逃す為に、宗兵衛様の仕込んだ策でした。しかし、全てを見破った鬼八に宗兵衛様は討たれ、巻物は奪われました」
「私が阿ノ国から盗み出した巻物のこと?」
「そうです。鬼八は巻物を憂ノ国に持ち込むつもりにございます。
このまま行けば、憂ノ国はすぐにでも阿ノ国に攻め入るでしょう」
「そんな……戦が!?」
「戦を煽動するが鬼八の狙い。お涼様、この地は間もなく戦場となりましょう。どうかお逃げくだされ!」
黒い瞳にうっすらと涙を浮かべて、お涼はしばらく放心していた。
やがて気丈に顔をあげると、お涼は西の空を見上げた。
「この地を戦場などにさせはしません。鬼八を止め、巻物を奪還します!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます