第36話 訃報
このところ、藤二の動向を気にしていたお涼は、長屋を出てすぐ異変に気づいた。
(つけられている……)
お涼は長屋の住人らを巻き込まぬよう、人気のない山へと向かった。
枝から枝へと飛び移りながら道なき山中を真っ直ぐに進む。
昼といえど薄暗い森の中、お涼は相手の力量を測った。
(藤二の放つ気ではない。しかし、この者もただ者ではない!)
お涼はあわよくば追跡を振りきろうと、意図的に難しい道を選んだ。
にもかかわらず、追っ手はお涼に姿を見せることなくピッタリと追走してくる。
お涼は森を抜け少し開けた場所に出ると足を止め振り返った。
「お久しぶりにございます、お涼様」
黒い忍び装束が森から飛び出してくるなりそう言って膝を折り、頭を下げた。
「…………じぃ?」
思いがけない来訪者に、お涼は目を丸くした。
母の影として長く仕え、母の死後は実の祖父のように接し育ててくれた古参の忍。
「じぃ! こんなところで会えるとは! 息災でありましたか?」
勢い駆け寄ったお涼は思わず足を止める。
お涼が猿のこの苦悶の表情を見るのは二度目だった。
初めて見たのは母あやめが出征し、命を落とした時。
「何か、
問いかけるお涼に、猿はキッと口を結び顔をあげた。
「宗兵衛様が討たれました」
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