第34話

(狙いは遠征軍を引き上げさせること。敵を倒す必要はない。できるだけ派手に騒ぎを起こして、敵に城攻めされていると思わせることができさえすればよい)

 あやめは天井裏に潜み、敵の動きをつぶさに観察した。


 外から仕掛けた火薬は城の内部にまでは及ばず、次第に鎮火されつつあった。


「まだまだ! 遠征軍が戻ってくるまで!」

 あやめは天井裏に油を撒いて火を放つ。


「中じゃ! 中にネズミが潜んでおるぞ! ひっ捕らえよ!」

 

 何本もの槍が、天板を破って突き刺さる。

 見えない刃を音で避け、あやめは先へ先へと進む。


「覚悟!!」

 追っ手の刀を素早い身のこなしで避け、火薬玉を投げつける。怯んだ隙に窓から外に出たあやめは最上階から懐に忍ばせた火薬玉を全てぶち投げ、本丸に火の雨を降らせた。

 

「ドスッ」

 鈍い音と共にあやめの喉元からゴフッと鮮血が吹き出す。


「やりたい放題やってくれたのが、こんなにちっこいメスネズミ一匹とは。風馬もなめられたもんだな」


 風馬の頭、権蔵の放った小型の槍は、あやめの背中から肺にまで達していた。


「単身でここまでの騒ぎを起こすとは、敵ながら見上げたもんだ」


 権蔵は火薬玉で空いた穴から外へと落ちていったあやめの亡骸を確認しようと、壁際に近づいた。


「ドシュッ」


 下を覗き込んだ権蔵の額にクナイが突き刺さる。


 息も絶え絶えながら槍を抜き、それを壁に突き刺して落下を免れたあやめは、その姿勢からクナイを放ち権蔵を仕留めると、力尽きて落ちていった。


「人に手折られ枯れ逝くよりも、自ら散るが徒花あだばなの本懐」

 あやめは最後の火薬玉に火をつけた。


「宗兵衛様……」


 この爆発であやめの命と共に、破の国の重鎮らの命が複数消し飛んだ。

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