第25話 牽制
お涼は目を伏せ話続ける。
「母は戦に出向く前に、こう言い残しました。『命を賭して護るものがある自分はなんと幸せ者であろうか』と。
忍であった頃の私は、この言葉の意味を理解できませんでした」
誰もが口を閉じて聞き入る中、お涼は言葉を続けた。
「忍を捨て、私は生まれ変わりました。この手で護りたいと心から願う伴侶を得ました。皆さんはどうですか? 命を賭して護りたい人は居ますか?」
藤二はお涼の言葉が自分に向けられていることに気づいていた。
(かつて忍びとして生きた女が、生まれ変わって新しい人生を心穏やかに歩んでいる。邪魔立ては不要、と言うことか?)
お涼はクナイを手に取った。
「先程の場面では、この距離からクナイを放って敵のクナイを弾くことができなければ、最愛の人が命を落とします。また、一投げで確実に敵の急所を刺さなければ反撃の憂き目に合います。
四人の間者を相手に長期戦となれば力の及ばぬおなごには不利。奇襲からの最短最速の手で決着をつけねば、辱しめを受けることになります」
強めの脅し文句にくノ一らが怯んだところへ、お涼は締めの言葉を放った。
「親、兄弟、恋人……愛しい人を護る力を欲しなさい。その力があなたたちを生かすでしょう」
指南を終えたお涼を藤二は外門まで送った。
「くノ一連中の目の色が変わりましたよ。ありがとうございました」
藤二はお涼に過分な給金を支払った。
「このような大金、受けとるわけには……」
「いや、どうぞお納めください。
実に為になる講義でございました」
そう言って立ち去る藤二の後ろ姿を、お涼は不安気に眺めていた。
(おそらく藤二はお涼にまだ疑いを持っている。このまま終わるはずはない)
そう思いながらも、無事に五平の元へと帰れることに、お涼はひとまず安堵した。
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