第23話 忍術指南

 翌週、城の稽古場にお涼は招かれた。

 よわい十ほどの幼子から上はお涼とさほど変わらぬ者まで、二十人ほどのくノ一の卵が集められていた。


 一通り手裏剣の的当てを見たお涼は首をかしげた。

「この者らは、戦を知らぬのではございませぬか?」


「いかにも。戦は話に聞くばかり。泰平の世に生まれた世代じゃ」

 藤二は、感心したようにお涼を見てそう答えた。


(手裏剣の一投げでそこまで分かるか)

 それは死線を越えてきた経験値のなせる技。藤二は、ますますお涼に関心を持った。


「技術以前に気概が足らぬのよ。どのように指導したものかと頭を悩ませておってな」

 藤二の指摘に、お涼は頷いた。


 お涼は藤二に頼んで里の男衆を五人呼んでもらい、喉元に紐で結んだ板を取り付けさせた。


「何を始めようというのか?」

 藤二は人質役として男衆の一人にクナイを突きつけられながら、成り行きを見守った。


 四人の男衆がお涼を取り囲み武器を構え、かなり離れてクナイを突きつけられた藤二が立っている。


 お涼はこの状態で真田のくノ一らに語りかけた。

「一人一人が今、この状況下に置かれていると思ってください。捕まっているのは味方、それもあなたの大事な人です。あなたはどうしますか?」


 真田のくノ一たちは、コソコソと話し合っている。

 お涼は解説を付け加えた。

「自分を囲んでいる四人を倒している間に味方は殺されるでしょう。

 味方を助けに行けば自分が四人の間者に殺されるでしょう」


「自分が犠牲になって仲間を助ける、とか?」


「犠牲になって死んだ時点で仲間を救うことはできません」


「仲間は諦めて自分の命を守る?」


「大切な人を見殺しにするんですか?」

 お涼の問いかけに全員黙ってしまった。

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