第21話 突然の来訪者

 長屋に戻った二人を身なりの良い侍が出迎えた。

「お待ち申しておりました」

 帯刀を許された上位の侍に一礼され、下級武士の五平は慌てた。

「こっ、これは! 不在にしており、大変ご無礼をばいたしました。むさ苦しい所ですがどうぞ中へ」


 侍の所作を見たお涼は身を固くし、離れて五平とのやり取りを見ていた。

(この御仁、只者ではない!)

 人の良い笑顔に隠された鋭い観察眼、一分の隙もない身のこなし。

 何より体が覚えている。一年前、五平の家に逃げ込んだときの追っ手が放つ気配に充てられて、お涼の腕に鳥肌がたった。


(あの時の手練れに相違ない。今になって捕らえに来たか!?)

 お涼は足元がガラガラと音をたてて崩れていくような錯覚にフラリとよろめいた。


 男は家に上がると、チラリとお涼を目の縁にとらえて五平に申し出た。

「木綿問屋の女将に聞いて突然馳せ参じた無礼、まずはお許しくだされ。

 実はあの暴れ馬の一件をたまたま目にいたしましてな。奥方は名のある里の出であろうと推し測り、手を貸してはもらえぬかと相談に参った次第です」

 話が見えぬまま、お涼は土間に入り扉を閉めた。

 五平とこの侍を二人にするわけにはいかない。


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