第20話 春の一日

 四月も過ぎて、桜も葉桜になりつつあったが、それはそれでお涼の纏う桜色の着物と若草色の帯の色に良く合っていた。

 

 真新しい着物に身を包み、五平とお涼は城の堀に沿ってゆっくりと歩く。


「普段この門をわしゃ護っておるんじゃが、ここから見る桜はそれはそれは綺麗でな。いつもお涼さんに見せたいと思ぅておったんじゃ」

 五平は照れたようにそう言ってお涼を振りかえった。


 サァッと春の風が吹き、桜を散らす。

 舞い散る花びらに彩られたお涼は天女のような美しさで、五平はあわてて真っ赤になった顔を逸らした。


「ほんに美しい。連れてきて下すってありがとうございます」

 目を細めて桜を愛でるお涼に、五平は夢見るように呟く。

「お涼さんは……桜のようじゃ。儚げで美しい」

 思わぬ賛辞にお涼も照れて頬を桜色に染めうつ向いた。


「私が桜なら、五平さんは野に咲く蒲公英タンポポのようなお人です。

 地に根を張りまっすぐお天道様を向いて咲き、見る者の心を暖めてくれる」

 桜の木の下に咲く蒲公英タンポポの鮮やかな黄色を、お涼は眩しそうに見てそう言った。


蒲公英タンポポか、ええな。毎年桜と共に咲く」

 五平は嬉しそうにそう言って、そっとお涼の手をとった。


「毎年、共に……」

 お涼は五平の大きな手の温もりに零れそうになる涙をこらえながらそっと微笑んだ。

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