第19話 思いやりの連鎖

 お涼は山のような反物の中から三本、五平のために色目の濃い上等な布地を選びとると残りは全て長屋の住人に配ってしまった。


「好きにしてよいと言われておりますゆえ」


 長屋のおばちゃん連中はもらった反物の中から各々一本、お涼のためにと普段使いの着物を縫った。


「後の反物は遠慮なくうちで使わせてもらうけどね。まずはお涼ちゃんのそのちんちくりんな着物を何とかしないと、こっちとしても気をつかうってもんさね!」


 桜の着物は大事にしまいこみ丈の足らないボロを来ていたお涼は、突然衣装持ちになった。


「嬉しいねぇ、ありがたいねぇ」

 五平はニコニコとおばちゃんたちから着物を受け取り頭を下げている。


「あんたの分はないからね! どうせお涼ちゃんが縫ってるんだろ?」


 隣のキヨ婆さんがついと中を覗き込めば、恰幅のいい五平に合わせた大きな着物が衣紋掛けにかかっていた。


「熊にあわせたんじゃ、縫うのも大変だったろうに。いい仕立てじゃないか! せっかく新しい着物ができたんだ、たまにゃ二人で出掛けてきたらどうだい?」


 キヨに促されるまま、五平は非番を待ってお涼を連れ出した。

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