第17話 里長の采配

「阿ノ国は近々密書の返事を伊ノ国に出すはずだ。そいつを奪い手土産にすりゃあ、憂ノ国に貸しができる。里ごと召し抱えられりゃ、戸隠の行く末も安泰じゃねぇか」


「愚かな! 万が一書状に同盟を結ぶとしたためられておれば、それを大義名分に憂ノ国は阿ノ国へと攻め入るぞ!」


「それこそ、願ったり」

 鬼八はニヤニヤと長老衆を見渡した。

「戸隠の実力を見せつけてお抱え筆頭になりゃ、発言力も増すってもんよ」


「先の戦で我が里も大きな痛手を被った。無駄な大戦は世を乱す。宗兵衛よ、憂ノ国は危険じゃ」


「そんな生っちょろいこと言ってるから衰退の憂き目を見るんだ!」

 鬼八はしびれを切らしたように板の間を拳で叩いた。

 それまで黙って場を睨んでいた宗兵衛が、ゆらりと立ち上がる。

 長老衆も鬼八ですらも、宗兵衛の放つ覇気に押し黙る。


「阿ノ国に草を放つ」※


「なんと! 憂ノ国に取り入ると言うのか?」 

 長老衆は宗兵衛の言葉に異議を唱えた。


「阿ノ国が同盟に同意するとも限らぬうちに憶測で騒ぐべきではない。

 阿ノ国は真田の里と手を組み、優秀な忍者を召し抱えておる。敵に回せばこちらも無傷では済まぬ。阿ノ国の返答を極秘に手に入れ、策を練る」

 

 宗兵衛の発言に長老らも顔を見合わせた。

「確かにそれも道理。して、誰を放つ?」


「お涼を」


 その名に鬼八が反応した。

「お涼を……阿ノ国に? もっと他に適任者が居るだろ?」

 鬼八の異論は受け入れられず、更に鬼八には別の任務が課せられた。 

 不自然な采配に、鬼八は猜疑心をムクムクと膨れ上がらせた。


 ※草=スパイ

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