第16話 鬼八の回想
今から遡ること一年余。戸隠の里、頭首の館の奥座敷に鬼八は座っていた。
居並ぶ長老衆の最奥に座り、揺れる燭台の向こうから鋭い眼光を投げ掛けてくるのは里の頭首、
「憂ノ
宗兵衛の言葉に長老衆はざわめいた。
「三国は三つ巴なればこそ、牽制しあい泰平がもたらされておる」
「憂ノ国の殿は野心家じゃ。阿ノ国、伊ノ国を制定し天下をとるつもりでは?」
様々な憶測を宗兵衛は遮った。
「伊ノ国から密書が阿ノ国に届けられたと言う情報が入った。憂ノ国の不穏な動きを察した伊ノ国が阿ノ国に同盟を申し出た可能性が高い」
長老衆は眉をしかめた。
「阿ノ国と伊ノ国が手を取れば、憂ノ国にとって驚異となろう」
「また戦が起こるわぃ」
「戦? 上等じゃねぇか!
嬉々としてそのようなことを言う鬼八を長老衆は嗜めた。
「バカなことを。ひとたび戦になれば田畑は荒らされ弱いものから死ぬ。我ら忍びは無駄な戦を避けるために策を練り暗躍するもの。ゆめゆめ表に出ようなどと思わぬことじゃ!」
「ケッ」
鬼八はあからさまに侮蔑の視線を長老衆に投げ掛ける。
「世が世なら鬼神と謳われた御大が、ずいぶんと日和見たものよ。長い泰平のぬるま湯に浸って
「慎め、鬼八!」
「諌められたとて、引きはせぬ!」
鬼八は悪びれもせず続けた。
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