第14話 怪しい男
「こ、こりゃえらいこって! こんなに大層なもんをもらうわけには……」
「なんの! 当家の跡取りを救って下すった恩人に報いようと思えば、足らぬほどですじゃ!」
五平とご隠居が言い合っていると、家の中からお涼が出てきた。
ほぅっと思わず野次馬も息を飲む。
お涼は突然押し掛けた女中らに取り囲まれ、あれよあれよと言う間に着物を着付けられた。
薄桃色の着物に若草色の帯は、五平がお涼のために選んだものだった。
「一から仕立て直しをしておりましたら、お届けが遅くなってしまいました。やっぱり若奥様にはこちらのお着物がよくお似合いでございますよ」
女将はそういって微笑んだ。
「父は古い人間でしてね、言い出したら聞きゃあしません。おあとは好きにしていただいて構いませんので、どうかひとまずお受け取りくださいまし」
女将が五平にそう耳打ちするので、五平は恐縮しきりに山のような反物を受け取った。
空になった大八車を牛に引かせながら、下男の一人が蛇のような目でお涼を見ている。
木綿問屋の一行にペコペコと頭を下げる五平、突然のことに放心するお涼。あるいは長屋の誰もがこの男に気づいていなかった。
(……ようやく見つけたぞ)
男は夕暮れの迫る路地を歩きながら、口の端を持ち上げて気味の悪い笑みを浮かべた。
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