第13話 大行列

 五平とお涼が祝言をあげ、一月も過ぎた頃、牛に引かせた大八車を下男が取り囲み、大層な荷を運んできた。

 車のあとには女中らが何人も付き従い、まるで輿入れのような大行列が狭い長屋の通りをしずしずと進んでくる。


 おばちゃん連中が通りに出て遠巻きに眺めていると、一行は五平の家の前で止まった。


「なんだい? 御旗本がお涼ちゃんを見初めたってんじゃないだろうね!?」

「お涼ちゃんは渡さないよっ! もううちの五平と祝言まで挙げたんだ!」


 勢い五平の家に押し掛けたおばちゃん連中は目を見開いた。

 大八車から立派な反物や帯が次々と降ろされ、五平の家に運び込まれていく。


「……こりゃ駄目かも知んない」

「ああ、だから着物の一枚も買ってやれって言ったのに」

「甲斐性なしの五平じゃ勝負にならんわな」


 恨めしそうに荷降ろしを眺めているおばちゃん連中の後ろから仕事終わりの五平が駆けてきた。

「こりゃまたなんの騒ぎだね?」


 おばちゃん連中がどう声をかけようかと戸惑っているすきに、女が小走りに五平のもとへと駆け寄った。

「ああ、良かった! 旦那さん、突然押し掛けて申し訳ございません」

 それは木綿問屋の女将だった。


「その節は息子を助けていただき、ありがとうございました。御礼申し上げたく氏素性を調べさせていただきました。ご挨拶が遅れましたこと、重ねてお詫び申し上げます」


 丁寧な口上を述べ、女将は五平に深々と頭を下げる。

 五平は合点がいったように笑うと、女将をとりなした。

「なんのなんの。こげなむさ苦しいところまでおいでくだすって、かえって悪いことをしましたなぁ」


 そこへ紋付きの羽織を見事に着こなした威厳のある老人が現れた。

「今は隠居している先代家長……私の父でございます」

 女将がそっと口添えした。


「此度は本当にありがとうございました。孫の命の恩人に、僅かばかりの心付けを持参いたしましたので、何卒お納めください」

 平伏しようとするご隠居を慌てて止めた五平は家のなかを見て腰を抜かした。

 ところ狭しと積まれた贈り物は大八車二台分もあった。

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