第11話 乙女心
日の暮れも早い二月の終わり、海岸沿いの松林に桜の咲くは幻か。
跳ねる鼓動を抑えながら近づいた五平は、松の大枝にうずくまるように腰かけたお涼を見つけた。
安堵に膝の力が抜けるのをグッとこらえ、五平は松に歩み寄る。
声をかければまた逃げ出すだろうかと思うと、なかなか喉からその名が出ない。
五平は黙ってお涼の寂しげな後ろ姿を見上げていた。
冷たい風にお涼の黒髪が揺れる。このまま消えてしまいそうで、たまらず五平は松の根元に駆け寄った。
「お、お涼さん!」
五平の呼びかけに、ビクリとお涼の肩が跳ねる。
「か、体が冷えるで、降りてきんさい」
木の上からお涼は悲しげな表情で五平を見つめた。
「どうした、なんぞ気に障ったか?」
戸惑いながらに声をかけると、お涼は黒い瞳に涙をためてフルフルと頭を横に振った。
「合わせる顔もなくて……」
お涼の頬を涙が伝った。
「なんの事やら分からんが、とにかく降りてきて話を聞かせてくれんか?」
頼み込むような五平の声に、お涼はおずおずと従った。
合わせは崩れ、買ったばかりの着物は土埃にまみれ、袂が大きく裂けていた。
「なんじゃ、着物を気にしておったのか」
鈍い五平にもそれとわかる出で立ちに、お涼はますます顔を曇らせた。
「せっかく
消え入りそうなお涼を五平は思わず抱きしめた。
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