第8話 新しい着物
「あんた! いつまであんなちんちくりんの着物をお涼ちゃんに着させておくつもりだい!?」
おばちゃん連中は五平に詰め寄った。
「せめて着物の一枚も買ってやる甲斐性見せないと、愛想つかされちまうよ!」
「そうともさ! あんな器量よしで働き者の嫁がこんな長屋住まいのあんたのとこなんかに来たこと自体が奇跡ってもんなんだからね!」
五平はタジタジになりながらも真新しい着物を着たお涼を見てみたいとぼんやり思った。
早速五平は非番の日にお涼を連れて問屋街へとやって来た。
何も聞かされていないお涼は戸惑った。
「いつも世話になっとるで、着物をしつらえてやろうと思って……」
「そんな! 私などにそのようなお気遣いは無用にございます!」
遠慮するお涼のそばでニコニコと木綿問屋の女将が言った。
「せっかくの殿方の申し出を無下になさるは野暮というものですよ。ほらこちらの反物をご覧ください。若奥様に良くお似合いでございましょう」
薄い桃色の反物は白いお涼の肌に良く映えた。女将に勧められるまま、五平はお涼の着物を一式注文した。
「私は恩返しのために置いていただいている身、このような分不相応なことをしていただくわけには参りませぬ」
ソワソワと落ち着かない様子のお涼を見て、なんだか五平もソワソワとしはじめた。
「
「いえ、そのようなことではなく……」
「ならばもろうておいてくれ。お前さんが喜べば、ワシも嬉しいでな」
五平が太い眉尻を下げて照れたように笑う。
その顔を見るだけで、お涼は胸が締め付けられるほどに切なくなる。
(ほんに、このお方は菩薩のようじゃ)
お涼は問屋街からの帰り道、五平のあとを歩きながら、幸せをかみしめていた。
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