第4話 再会

 どこをどう歩いたのかお涼には分からなかったが帰巣本能か、はたまた憐れんだ神の加護か。お涼は海から上がったずぶ濡れの体を引きずって、長屋の路地を歩いていた。


 さながら亡霊のようなその姿を見咎めるものもない新月の夜。お涼は男の家の前にたどり着くと同時にパタリと倒れ込んだ。


 屋根から雪が滑り落ちるような音に、五平は長屋の引き戸を開けた。

「なんと! またお前さんか!」

 五平はすっかり冷たくなったお涼の体を抱えて大慌てでいろり端に横たえた。

「なんでまた、いつもいつもこんなひどいことに!?」

 世話焼き五平と近所でも有名な気の良い男だったが、此度のお涼の状態を見ると、さすがに目を白黒させた。


 罪人が身に付ける浅葱色の着物。

 背中にはベットリと血がにじむ。

 海水に浸ってバサバサに固まった髪に、土気色の顔。

 冷えた手首を握れば拍動は今にも消え入りそうなほどに弱かった。


「どうしよう!」

 五平は町医者の良庵先生を呼びに走った。


「こりゃあ酷い」

良庵先生は眉をしかめてお涼の傷を手当てする。

「背中の火傷も酷いが、とにかく体力を使いきっておる。今夜が峠じゃな」

 それを聞いた五平は、一晩付きっきりで火を焚きお涼に付き添った。


 城の警護を生業とする下級武士の五平に休みなどない。

 五平はやむを得ず良庵先生の家の奥座敷にお涼を預け、勤めが終わると看病に通った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る