第3話 冷遇

 三日三晩走り続けて里に戻ったお涼は、巻物を回収されると座敷牢に閉じ込められた。

「なぜこんな仕打ちを!?」

 抗議するお涼に投げつけられた冷淡な言葉。


「追っ手に姿を見られておめおめと戻ってくるとは! お前の失態で我が里に嫌疑がかけられておる。死して我が里の潔白を晴らすことがお前の最後の任務だ!」


 お涼の白い背中には『落ち忍』の印が焼きごてで押された。

 自分の意思で里を抜けた抜け忍とは意味合いが異なる。

 失態を犯し追放された忍者を示す落ち忍の印は、忍の者として最も不名誉であり不能の証でもある。

 罪人を示す浅葱色の着物を着せられたお涼はそのまま崖から海へと突き落とされた。


「海の藻屑と消えるもよし、死体が上がって焼き印を晒すもよし。これでこの一件に我が里が関わったという証拠は何もなくなった」

里長の宗兵衛はそう言うと、お涼を屠った崖にくるりと背を向けた。



 毒で体の弱っていたお涼は海に落とされてすぐに気を失った。

 だがそれが功を奏した。

 潮の流れに逆らうことなく流されたお涼の体はやがて磯に流れ着く。


 海に落ちてすぐに気を失ったお陰でさほど水も飲まずに済んだお涼は、やがて目を覚ました。

 岩場に手をかけ体を起こせば、焼かれた背中が燃えるように痛んだ。


 死に損ねたお涼は海から体を引き上げる。

 里に切り捨てられ、落ち忍の烙印を押されたお涼にもう生きる糧などなにもない。


 心残りはただ一つ。

 見も知らぬ自分に床を譲り介抱してくれたあの男に、最後に一目会いたかった。

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