第2話 介抱
気づいた時、お涼はまず激しい痛みを覚えた。
お涼の肩を掠めたクナイには毒が仕込まれており、逃亡時激しく動いたことにより毒は全身に回っていた。
肩は燃えるように痛み、頭は割れるように響く。脂汗を流しながら再び意識を手放す刹那、お涼は心配そうに我が身を覗き込む男の顔を見た。
(一体誰が……)
一瞬沸き上がった焦燥感は、意識と共に薄れて消えた。
次に目を覚ましたのは夜明け前だった。
お涼はゆっくりとまぶたを開き、自分のおかれた状況を瞬時に分析した。
薄いせんべい布団に寝かされ、肩には不器用に包帯が巻かれている。
額には冷えた手拭いがのせられ……そして枕元には男が座ったまま眠りこけている!
お涼は傷の痛みも忘れ跳ね起きた。懐に手を入れれば、固い巻物の芯が触れた。
安堵したところで改めて我が身を見る。治療のためか着物が着崩れている。
お涼は着衣を整えながら軽いいびきを立てて眠っている男をじっと観察した。
人の良さそうな丸顔に、太い眉。大きな体躯を折り曲げて柱に寄りかかっている。
男の脇には水を張った手桶が置かれている。
何度も手ぬぐいを取り替えたのであろう。跳ねた水が板の間を濡らしていた。
(なぜこんなことを?)
お涼は首をかしげた。
家へと忍び込んできた手負いの怪しい輩に布団を差しだして介抱するなど、厳しい生存競争社会に生きる忍のお涼には考えの及ばぬことだった。
とにかく命拾いをした以上、お涼のすべきことはただ一つ。巻物を里に持ち帰るのみ。
お涼はつっかい棒一本の小窓に足をかけ、ふと振り向いた。
男の穏やかな寝息を耳に張り付けるように聞き取ると、お涼は意を決したように飛び出し暗い夜道に紛れて走り去った。
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