第27話、女神の祝福

 ごほんっと、女神様がわざとらしく咳払せきばらいをした。どうやら女神様から何か話題があるらしい。僕達も居住まいをただす。

「さて、新藤ヤマト。貴方は私の期待した通り道化師と死神を打倒だとうしました。その宿命を課した者として報酬おんけいを支払わなければなりませんね」

 ―――さあ、望む報酬をって下さい。

 そう言う女神様は中々ノリノリだった。多分たぶんだけど、こういうシチュエーションに憧れていたんだろうと思う。運命うんめいの女神様だし、人に試練をしてそれを乗り越えた勇者に恩恵を与える。そういうノリだろうか?

 まあ、僕が勇者だなんて思い上がりもはなはだしいだろうけど。

「……まあ、はっきり言って別にのぞむものなんて特にないけどさ」

「そういう訳にはいきません。これは対等な契約けいやくですから」

 苦笑する僕に、女神様も苦笑を返した。うん、やっぱりそうだよね。

 試練を課した者として、恩恵を差し出さないワケにはいかないんだろう。

「……じゃあ、一つだけいても良いかな?」

「はい、何でしょうか?」

「僕とメリーさんって今魂でつながっている訳だけど、これってどうにか出来る?」

 これは、つまり現在の僕とメリーさんは一つの命を共有きょうゆうしている事になる。それはつまり、共有している命が危機に立たされれば二人ともあぶないという事だ。

 つまり、命を共有している以上どちらかが死ねばもう一人も死ぬ事になる。

 これは、正直マズイのでは?と思ったから。

 ……とはいえ、まあこの世界には上手うまい話などそうはないだろう。

「……残念ながら、その命の共有をる訳にはいきません」

「だよね」

「え、どうして⁉」

 僕と女神様の会話に、アキさんが疑問ぎもんの声を上げた。その疑問に、女神様は少し沈鬱な表情で答えた。

「……実は、ヤマトは本来ほんらいあの戦いで死んでいた筈でした。その死んだ筈の魂を命の共有によって何とか繋ぎ止めているのです」

「そ、そんな……」

「例え、私のような最高位のかみであっても完全な死者蘇生は容易よういではありません。私に出来るのは、今ある命を変質へんしつさせて生まれ変わらせる事だけ。それは転生前の魂とは全くの別物となるでしょう」

「……………………」

 その言葉に、アキさんはだまり込んだ。そう、この状況は既に予測の範囲内だ。

 だからこそ、僕はこの状況下で一つの代替案を用意しておいた。

「……其処で、僕は一つ提案ていあんがある」

「提案、ですか?」

「ああ、その前にメリーさんとアキさんに聞きたいんだけど」

「……?」

「私達に?」

 そう、メリーさんとアキさんの二人に。

 僕は、天界の地面に片膝をいてメリーさんとアキさんへ片手を差し出した。それはまさに今から告白こくはくする男のポーズだ。そう、今から僕は二人に対して一世一代の告白をするんだ。

 まあ、二人にというのが不純ふじゅんではあるだろうけど。この際構うものか。

「どうか、これからの人生じんせいをずっと僕と一緒にきて死んで欲しい」

「……へ?」

「それ、は……?」

 どうやら、二人とも意味を理解しきれずに呆然ぼうぜんとしているらしい。対照的に女神様は全てを理解しているのかさっきから微笑ほほえんでいる。

 そんな女神様の見守る中、僕はつづけた。

「つまり、僕とメリーさんとの命の共有を切れないならいっその事そのままより強固に繋いでしまおうという事だ。僕とメリーさんだけではなく、アキさんも一緒に」

「「…………⁉」」

 その言葉に、流石の二人も驚いたのか目を見開みひらいている。

「どうか、僕と一緒に生きてくれないだろうか?」

「……い、の?」

 僕の言葉に、メリーさんがぽつりとつぶやいた。その顔は、真っ赤に染まっている。

 僕は、そんなメリーさんを真っ直ぐ見ながらこたえた。

「メリーさんとアキさんだからこそ良いんだよ。この二人以外はいやだ」

「私の本性は人形にんぎょうなのに……」

「関係ないよ。例え、人形のおけだろうとメリーさんはメリーさんだ」

「これ以上、ヤマトをしばるわけには……」

「僕は、メリーさん達なら縛られてもかまわない。一生だって、来世つぎだって縛られても構わないと思っているよ」

「~~~~~っ‼」

 メリーさんはついに黙り込んでしまう。対して、アキさんはふてくされたように頬を膨らませて黙り込んでいる。

 なので、今度はアキさんに構う事にした。

「アキさんは、いよね?」

「二人相手に、という所が不純だと思う」

「けど、僕が言った事は本音ほんねだよ?メリーさんとアキさん以外は絶対に嫌だ」

「……もう、ヤマトの馬鹿ばか。大好きだからね?」

「うん、分かってる。じゃあ、女神様もよろしくお願いします」

「ええ、分かったわ。それにしても、ヤマト君もつみな男の子ね」

自覚じかくしてます」

 そう言って、苦笑した。やはり、女神様も苦笑を返してきた。

 そうして、僕達は三人で命を共有した。女神様の力により、三人の魂を一つに繋げ三人で命を一つにした。

「……三人の魂を一つに繋げた事により、三人は大幅に寿命がえた事でしょう。恐らくは普通の人間よりはずっと長生ながいきする筈です」

「はい」

「ですが、貴方達ならきっとつらい時も苦しい時も三人でり越えられる筈です」

「はい」

「貴方達なら、きっと出来ると信じてますよ?」

「はい、頑張がんばります。僕達三人で」

 そう言って、僕達三人は天界からかえった。

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