第21話、生きる理由

「あははははははははははは!あはははははははははは、ははははははは!」

 わらっている。狂ったような嗤い声が聞こえる。だが、僕はもうどうする事も出来ずただ呆然ぼうぜんとするのみ。ナイフをき立てられた胸の中央から血を流しながら、ただ呆然としているのみ。

 背後で、メリーさんが愕然がくぜんとしているのが気配で分かった。だが、それもまたどうする事も出来ない。僕にはもう、何も出来ない。

 嗤っている。狂ったようにフードの死神が嗤っている。道化師も嗤っている。

 口からごぼりと大量の血を吐いた。どうやらはいも傷付いているらしい。

 戦いにすらならなかった。最初から、力の差がちがい過ぎた。僕に出来るのは、ただメリーさんやアキさんをかばう事しか出来なかった。

 首を鷲掴わしづかみにされている為、たおれる事も出来ない。ナイフを引き抜いた場所からごぼごぼと血が溢れ出るのが分かる。血液が急激にうしなわれ、さっきから寒い。どうしようもないくらいに、寒い。

 嗤う。それでも嗤う。道化師と死神の二人が嗤っている。その声も、もう遠くなってきた。そのまま、僕は背後に居るメリーさんへとげ捨てられて。メリーさんを巻き込んで僕は倒れた。

 僕を抱きかかえ、メリーさんが何かを言っている。アキさんも、涙目で僕に何かを叫んでいる。けど、何を言っているのだろう?こえない。

 ……何も、聞こえない。

 寒い。寒い。ああ、僕はもう死ぬのか。もっときたかったな。もっと生きて、もっとメリーさんやアキさんとあそびたかった。もっと笑いたかった。楽しいを繰り返したかった。

 でも、それももう終わる。此処で終わる。

 ———ああ、何てさみしい。

 そう、全てをあきらめかけた。その時……

『———貴方には、生きる理由わけがあるのですね』

 声が、聞こえた。この声は……

 そう、この声を僕は知っている。この声は、昔僕が初めて異世界に転移てんいした時にその世界での旅の果てで出会った女神めがみ様の声だ。

 気付けば、其処は光に満ちあふれた空間だった。その光の中心に、女神様が立っているのが見える。僕は、その女神様と向かい合っている。

 ———此処ここは?

『此処は、貴方の精神世界です。少し貴方の精神ココロに干渉させて貰いました』

 ———精神に干渉?僕は、

『今はそんな話をしているひまは無い筈です。貴方には、まだまだ生きる理由があるのでしょう?なら、その生への執着しゅうちゃくを爆発させて下さい。限界を超えた意思の力が、貴方に力を与えてくれる筈です』

 ———力?

 僕の疑問に、女神様は微笑みながら僕へ手を差し伸べる。その手にれた瞬間、僕の身体に力がみなぎってきて……

『あの道化師と死神、彼等を倒した後で天界てんかいに来て下さい。其処で全ての真実を話しましょう。どうして、神である私が人間ヒトの貴方に干渉したのか。そして力を与えて道化師との戦いを宿命しゅくめいとしたのか。その全てを話しましょう』

 ———…………分かりました。では、また後で。

 次の瞬間、僕の精神世界から女神様が消え去った。どうやら僕の精神への干渉を止めたらしい。気配すら感じない。

 メリーさんとアキさんが、僕をぶ声が聞こえる。メリーさんもアキさんも、泣いているのが分かる。だったら、男の僕が女の子を泣かせる訳にはいかないだろう?

 だから、僕は女神様の言った通り意思おもいの力を爆発させて……

 ———そうだ、僕はまだ生きたいんだ。まだ、二人ともっと遊びたいんだ。

 だからっ‼

 ・・・ ・・・ ・・・

「ヤマトっ!ヤマトおっ!」

 私は、錯乱さくらんするままにヤマトをき締めながら声を張り上げた。ヤマトの身体は既に冷たい。体温が全く感じられない。顔には死相しそうが張り付いている。

 そのからは、光が消え失せている。

 アキも、ヤマトにすがり付いて泣きじゃくっている。絶望の表情で、泣いている。

 既に、私達に戦意せんいはない。もう、戦うだけの意欲は失ってしまっている。

 そんな私達を、嗤いながら眺めている二人。そんな事すら気にならないくらい、私達は絶望していた。ヤマトを失った事が、私達の心を打ちくだいた。

 そうだ、もう認めるしかない。私は、私達はヤマトの事が大好きだったんだ。

 彼一人を愛してしまっていたんだ。だから、彼を失った事がこうもつらい。

 ———‼

「…………え?」

 瞬間、私の脳裏に一柱の女神の笑顔がうつった。その瞬間、私がやるべき事が漠然と理解出来て……

 ———ヤマトをすくいたいですか?なら、貴方の覚悟と想いをしめして下さい。

「…………っ」

 私は、ぎゅっと口を引き結んでヤマトをそっと抱き寄せた。そして、ヤマトの顔をそっと私へと寄せて……

 そのままヤマトへ口付くちづけした。

 瞬間、ヤマトを中心にして強烈なひかりが爆発して……街全体をたした。

 そうして、其処にありえざる奇跡きせきが発生した。

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