炎上決戦編

第20話、炎上する街で

「ははははは!あはははははは、はははははははははははっ!」

 わらう。狂ったように嗤う。男は狂ったように嗤っている。火の海にかこまれ、男自身今にも焼かれそうになっているにもかかわらず。それでも嗤っている。

 心底楽しそうに。嬉しそうに。そして、全てをあざけるように。

「ああ、今日は何て楽しい日だろうか。ついつい心躍こころおどって焼き払ってしまった」

 嗤う。男は嗤う。そんな男の前に、一人の少年がバットを片手に憎悪ぞうおの目を向けている。少年は街に放たれた火により、家族をうばわれたのだ。その首謀者である男に憎悪と怒りを向けるのも当然だろう。

 しかし、男はそれでも嗤っている。少年など気にもめずに嗤っている。

 それがかんに障ったのか?少年は絶叫を上げて男にバットでなぐり掛かった。

 だが、

「駄目だよ~?そんなものを振り回しちゃ、あぶないじゃないか?」

「…………あっ」

 フードの男が、少年の背後はいごから背中に大振りのナイフを突き刺した。刺された少年はそのまま足をもつれさせたかのように無様にころび、そしてそのままびくんっと震えた後で息絶えた。

 それでも、まだ男は嗤っている。色々な色で着飾きかざった道化風の男は嗤っている。

「楽しそうだね~?そんなに楽しいのかな?」

「ああ、楽しいねえ。火の海をかき分け必死に足掻あがく人達も、その中で絶望して諦めてしまう人達も、そしてその怒りをたよりに抗う人達も。全て楽しい」

 楽しくて楽しくてしょうがないと、道化師ハメルンは言う。まるで、狂ったような考え。

 だが、その考えをフードの男は否定ひていしない。どころか、たのしそうに見ている。

「その果てに、自分がアイされても良いのかな?」

「その通りだとも。お前は楽しくないのかな?死神グリム

「もちろん楽しいさ♪」

 死神。そう呼ばれたフードの男も嗤っていた。楽しそうに、うれしそうに。

 そして、狂ったように嗤っていた。

 狂っていた。二人はともに狂っていた。故に、二人はこの世界セカイに起こりうる全てが楽しいと言う。そして、この世界で自分達が起こす全てが楽しいと言う。

 ああ、だからこそこの二人はめなければならないのだろう。

「君は楽しくないのかな?ヤマト」

「楽しい筈が無いだろう?こんなの、ちっとも楽しくない」

 其処には、ヤマトと二人の少女が立っていた。その表情は三人共に怒りでめられている。当然だ、三人は自身の住む場所をうばわれたのだから。

 住む場所を奪われた。大切な場所を奪われたのだ。楽しい筈がない。

 だが、そんな三人を前にしても二人は嗤っている。楽しそうに嗤っている。

「じゃあ、どうするのかな?」

「お前を、たおす」

 そうして、戦端せんたんは切られた。最終決戦は、始まった。

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