第19話、滅び

「じゃあね、また何れあいし合おう!」

 そう言って、フードの男は私達からげ去った。私達は追う事すら出来ない。極限の疲れによりその場にへたり込んでしまった。

 それに、私達は予想以上にかなしみが強く出てしまって。本気が出せなかったというのもあった。そばにあるのは、ヤマトとカイ博士の死体したい。致死量の血を流した遺体が其処に横たわるだけだった。

「ヤ、マト……」

「ごめん、なさい……ヤマト、ごめんなさい……」

 私とアキは、目から涙を溢れさせ静かに嗚咽おえつを漏らした。そんな時……

「……別に、あやまる必要は無いよ。僕こそごめん」

「……え?」

 私の口から、僅かに疑問の声がれる。其処に居たのは、傷一つないヤマトとカイ博士だった。傍には確かに二人の死体がを流し倒れている。その筈なのに、どうしてか其処に二人は生きて立っていた。

 つまり、其処に同一人物の死体と生者せいじゃが居た。

 どういう事か分からず、私達は困惑こんわくする。どうして?

 私の疑問に気付いたヤマトが、傍にあったリモコンを操作した。瞬間、倒れていた死体はジジッとノイズを発した後でえた。

「超精密具現化プリンタだよ。確か、物質化ぶっしつかした立体映像だったかな?」

「……そんな、技術ぎじゅつが」

「それよりもごめん。敵をあざむく為とはいえ、メリーさん達を騙———」

「ヤマトっ‼」

 ヤマトの言葉を遮り、アキが彼の胸元に飛びついた。その目には涙があふれて、一目で心配だったことが理解出来る。ヤマトはそんな彼女をそっとやさしく抱き締め、穏やかな笑みをこぼした。

 そんな笑顔も出来るんだな。そう思う心もあったけど。それ以上に私は一抹の寂しさを覚えて。二人を離れた所から見ていた。

 そんな私に、ヤマトは笑みを向けて手招てまねきする。そんな彼に、私は苦笑を浮かべて首を横に振った。

 そんな私に、ヤマトも苦笑を浮かべる。

「ごめん、二人とも。僕がふがいないばかりにこんな手段しゅだんしか取れなかった」

「……ううん、ヤマトが無事ぶじで本当に良かった。ヤマトが生きていて、本当に良かったよおっ」

「ごめん、本当にごめんなさい」

 そうして、しばらくヤマトとアキは抱き締め合っていた。

 ・・・ ・・・ ・・・

 ……しばらくして、ようやくアキさんがき止んだ。うん、今後はこういう手段は出来る限りしないようにしよう。流石にアキさんを泣かせたくはないしね。

 とはいえ、流石にアイツが現れた以上は此処でのんびりしているひまはないな。

「カイ、そろそろ僕達はかえる事にするよ」

「ああ、そうした方がよさそうだな……」

 僕達の言葉の意味が理解出来ないのか?メリーさんとアキさんは首をかしげる。

 そんな二人に、僕は説明せつめいをした。

「僕達を襲撃しゅうげきした男。厳密に言えばその背後で暗躍あんやくしていた奴だけど、そいつが居る以上は早く元の世界にかえらないととんでもない事になる」

「……えっと、ヤマトは黒幕くろまくの事を知っているの?」

 アキさんが疑問ぎもんを口にする。まあ、確かにあいつの事を知らない人からすればそうだろう。あいつは一言で言えば、危険きけんだ。

「知ってるも何も、『道化師』だよ。あの男が背後に居る以上は元の世界も安全あんぜんとは言えないからね」

「それほど危険な人なの?」

「ああ、その話は帰ってから話そう。そろそろ帰るよ?」

 そう言って、僕はメリーさんとアキさんの二人の手を取った。瞬間、僕達は元の世界へ戻っていた。

 一面が火の海と化した。地獄じごくと化した世界に……

「「「———っ⁉」」」

 その光景に、僕達は三人ともに絶句ぜっくした。周囲一帯は、既に火の海と化している。

 ……どうやら、一手遅かったらしい。

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