第18話、暗躍する影

 私は懐から包丁ほうちょうを取り出し、フードの男へ切り掛かる。アキも既に人狼じんろうの姿に変身しているらしい。身体がこげ茶色の体毛におおわれ、二足歩行の狼のそれとなる。対するフードの男は至って平然とした態度を崩さない。

 どころか、フードのおくでにやにやと笑っている。

「あ、驚いたな?この世界に人狼が実在じつざいするなんてさ。それに、君は人形かな?ああそうか、君達は異世界いせかいから来たんだねえ?」

だまれ、クズが‼」

「貴方だけは、絶対にゆるさない‼」

 私の包丁とアキの爪を男は軽く一本のナイフでさばく。その身のこなしもナイフの扱いも、まさしく人間ヒトの域を超えている。

 私達人外二人を相手にしながら、それでもいきも切らさず捌き切るその腕前はまさに化け物と呼んで差し支えがないだろう。それに、ナイフもそうだがフードの男は返り血を一切浴びていない。

 床にたおれているヤマトとカイ。二人の死体からは致死量の血液がぶちまけられているにもかかわらずだ。少なくとも、彼は一切の返り血を浴びずに人を殺す技量があるのだろう。

あぶないなあ、人に包丁を向けるものじゃないっておしえられなかった?君も、そんな怖い顔でにらまないでよ。剣呑剣呑」

「っ、お前が……‼」

「言うなあっ‼」

 そうして、戦いは更にヒートアップしていく。その戦いを、とおく離れた異空間から覗き見しているものの存在そんざいにも気付かずに。

 ・・・ ・・・ ・・・

 其処そこは、世界から切り離された異空間。其処に、一人ビルの中での戦闘をのぞき見している人物が居た。色々な色で着飾きかざった、道化風の男。

 その男はわらいながら心底楽しそうに様子をながめている。

「なるほど?大切な人物ヒトを殺されたらああも人はおこれるものなんだねえ」

 嗤う。男は心底楽しそうに、狂ったように嗤う。全てをあざけるように嗤っている。

「で?君達きみたちはそんな彼女たちを見て、何とも思わないのかい?」

「お前が言うなよ。この状況を生み出した愉快犯ゆかいはんが……」

 道化師どうけし、ハメルンの背後にあらわれた二人の人物。それは、フードの男に殺された筈の二人の男。そう、ヤマトとカイの二人だった。

 カイはハメルンの背中に拳銃を突き付け、ヤマトは霊力で造られた剣を向ける。

「ふうん?でも、あの子達は少なくとも君の事をおもって怒っているようだよ?そんな彼女たちをほうっておいていいのかい?」

「だから、お前が言うなよ。お前が言うのは不愉快ふゆかいだ」

「ま、十分に時間はかせげたしこれで良しとするかな?」

「お前、何を……っ⁉」

 瞬間、ハメルンはそのまま急に吹き荒れた風と共にかすみの如く消え去った。

 どうやら、ビル内での戦いも終結おわりを迎えたようだ。とはいえ、フードの男が二人の前から逃走とうそうしたという結末だが。

 そっと、ヤマトは溜息をいた。

「また、面倒な事になりそうだな。最悪さいあくの事態にならなければ良いんだが」

「ああ、そうだな……」

 ヤマトの言葉に、カイは淡泊たんぱくに答えるのみだった。

 嫌な予感よかんがした。そして、その予感が当たる確信かくしんもあった。

 恐らく、その嫌な予感はかならず当たるだろうと。確信していた……

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