第13話、カオスは更に密度を増していく!

 スナック『口裂け女』———

 私は現在、口裂け女の翔子がいとなむスナックでオレンジジュースを飲んでいる。もちろんカウンター席だ。私はスナックのカウンター席で優雅ゆうがにジュースを飲む。

「ぷはっ、相変わらずこの店のオレンジジュースは美味おいしいわね」

「褒めて貰って光栄こうえいだけど、この店がスナックだってわすれてないかしら?」

 それは忘れていないわよ?けど、なんでかしらこの店はち着くのよ。なんというか実家じっかのような安心感があるというか。もはや空気が実家そのものというか。そんな安心する空気がながれているのよ。

 そう言うと、翔子はあきれたように溜息を吐いた。

 貴方も大概たいがいフリーダムねえ、とそう翔子は言った。失礼しつれいな……

「はぁっ、それで?今日は何の用事かしら?」

「ああ、うん。ヤマトに彼女かのじょが出来たのよ。えっと、人狼じんろうのアキだったかしら?」

「……ああ、あのやたら元気の良いね」

 うん、そう。あの一件以来、結構ヤマトとの仲がふかまってね。

 アキがヤマトを誘惑ゆうわくして、その度にヤマトの発言はつげんで正気に戻り顔を真っ赤にする姿が目撃もくげきされるようになった。うん、あの時のヤマトの発言ははっきり言わなくてもセクハラだと思う。あの時のヤマトの笑顔はとても良い笑顔だったわ。

 絶対に分かってやっていると思う。あのセクハラ発言。

「アキもヤマトも実の所、素直すなおじゃないからねぇ」

「……そうなの?あれで?」

「ええ、私が知る限りアキは自分の内面ほんねを突っ走る事で隠して、ヤマトの方は……」

「ヤマトの方は?」

 そう言って、翔子ははぁっと溜息をいた。一体何だろうか?

 妙にもったいぶる。

「あの子は滅多に本心をかたらないのよ。相手をからかう事で自分の本心を隠し通すからね。まあ、別に後ろぐらいものを持っている訳じゃないとは思うのだけど」

「……そうなの?」

「ええ、むしろあの子の場合は他人まわりを傷つけないための配慮はいりょをしているんだと思う」

 えぇ~?あれで?何だかんだ言って、あいつ自身楽しんでやっている気がするんだけどね。いや、そもそもアイツにそんな配慮が出来るの?

 そんな私のうたがいの眼差しに、翔子は苦笑くしょうを返した。

「それは後々のちのち、あの子と付き合っていれば分かるわよ。あれであの子も色々とかかえすぎというくらいには抱えているから」

「はぁ、そうなの?」

「そうなのよ」

 と、その時にカランカランとドアに着いた鈴が鳴りひびいた。ドアが開き、客が入ってきたのだ。其処に居たのは、不思議ふしぎな姿をした青年だった。

 色々な色で着飾きかざった道化風の青年。それでもその姿が嫌味いやみにならない程度には着こなしているといえる。その青年に、翔子はびっくりしたように目を見開いた。

「まさか貴方がるとはね、『道化師』」

「いや、僕も此処に来るつもりは無かったからね」

 そう言って、道化師どうけしと呼ばれたその男は私をじっと見てみを浮かべた。

 えっと?

「失礼、僕の名前はハメルン。かつてハーメルンのまちで少年少女を神隠しに合わせたしがない道化師さ」

「……えっと、誘拐魔ゆうかいま?」

「はははっ、まあ人間社会で言うとそのとおりだね!」

 えっと?人間社会で言うと?

 どういう事か理解出来ない私に、翔子は呆れたような顔で溜息混じりに言った。

「……その道化師はね、人間ヒトじゃないのよ。かといって妖怪や魔物という区分ジャンルにも当てはまらない『正体不明』なの」

「ま、ともかく今日は君にいに来ただけだよ。それだけの目的もくてきだから別に深い意味も何も無いよ」

「は、はぁ……」

 曖昧な返事をする私に、ハメルンは形容けいようしがたい笑みで去っていった。

 ……この時、私はるよしもなかった。

 まさか、この男がのちのキーパーソンになるとは。思いもしなかったのだ。

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