第3話、怨嗟の叫び(虚)

「ふんっ、骨ものこさずに焼け死んだか……」

「そんな事はないよ~」

「っ⁉」

 僕はファントムの背後から気楽きらくに呼びかけた。何をおどろいているのか?メリーさんも愕然とした表情かおで驚いている。ただ一匹、ウロボロスだけが平然とした表情でこの状況を見ている。

 どうやら、ウロボロス以外には理解出来ていなかったらしい。まあ、別に良いけどとにかくファントムの背中せなかに御札を張り付けておく。

 ばちばちっとファントムの背中で電気でんきが走った。ファントムの身体がびくんっと震える。どうやら多少の効果こうかはあるらしい。

「霊体をしばる御札を張ったよ?これでゆっくり話が出来るね」

「ぐぬぅっ、貴様……何を」

 苦しそうにうなるファントム。そんな彼に、僕は気楽に笑った。

 その笑みに何を恐怖きょうふしたんだろう?ファントムの顔が蒼褪あおざめた。

「ともかく、お前は何を恨んでいるんだ?お前の怨念おんねんの根っこは何だ?」

「貴様がる必要は、無いっ‼」

 御札が更にバチバチと電気を走らせる。どうやらかなり抵抗ていこうしているらしい。だがそのまま黙って見ている訳じゃない。僕はの御札をファントムの背中に張り付ける。更にバチバチと電気が強くなる。

 びくんっとファントムの身体が強くふるえた。

「もう一度聞くよ?ファントム、君の怨念の根っこは何?」

「……我が怨念の根、それは我がなわばりを守れぬままに貴様等下等な人類ヒトに敗れて死した事———」

「はい、うそだね」

 更にもう一枚。御札を背中に張った。更に強い電気がファントムに流れる。

 それが嘘だって事は普通に分かる。ファントムの怨念はそんな大仰おおぎょうなものではないだろうと。そう僕はさっしを付けている。

 何故か?僕の霊感れいかんがそう告げているからだ。

 その光景こうけいに、メリーさんは顔を真っ青にしていた。

「何あれ、えげつない……」

「うむ、ヤマトは意外いがいと敵には容赦ようしゃしないからな」

「え、じゃあ私はどうして無事ぶじだったの?」

「そりゃまあ、敵とみなされていなかったからではないか?」

「……………………」

 膝を着いて落ち込むメリーさん。何を落ち込んでいるのだろう?まあ良い、とにかく今はファントムの方に集中しゅうちゅうしよう。

「で、だ。お前の怨念は何処どこから来てるんだ?吐けばらくになるぞ~」

「ぐぬう、我が……怨嗟えんさ。それは……」

「それは?」

「我が、つがい……メスと番になれずに死した事だーーーーーーっ‼‼」

 ・・・・・・・・・はい?

「「「はい???」」」

 僕とウロボロスとメリーさんの三人が、同時に疑問ぎもんの声を上げた。

 えっと、つまり?

「貴様等に分かるか!オスとしてしゅの責務を果たせぬまま死した者の怨嗟を!貴様等に分かるか!オスとして繁殖出来ぬまま死した絶望ぜつぼうを‼」

「えっと、つまり君は童貞どうていをこじらせて死んだのに納得出来ないと?」

「そんなかるい表現を使うなーーーーーーっ‼‼」

「あ、はい……ごめんなさい?」

 いやでも見なよ。メリーさんもウロボロスもぽかんとした表情で見てるぞ。

 予想以上に理由りゆうがアレだった。うん、気持ちは理解出来るけど。その気持ちは男として普通に理解出来るけど。存外ぞんがいしょうもない?

 そんな理由で八つ当たりされてもなあ?

「うんまあ、とにかくそろそろらくになって貰おうか?」

 そう言って、僕は一枚の御札を取り出した。その御札に純粋じゅんすいな霊力を籠めてゆく。

 霊力は太陽たいようの属性を受けて太陽の如き輝きを放つ長剣に変化する。

 太陽の属性を帯びた霊剣。それはアンデッドに対する特攻能力とっこうのうりょくを持つ。

 僕はその輝く長剣をり上げる。その剣を見たファントムはひっと短い悲鳴を上げて蒼褪めた。

いやだ、死にたくないっ‼死にたくなああいっ‼」

「はい、さくっとね?」

 僕はそのまま笑顔えがおでファントムの首へと長剣を振り下ろした。霊力で出来たこの長剣は霊体れいたいのみを斬る。断ち切られた怨念は、そのまま怨嗟を浄化じょうかされゆっくり天へと昇っていった。

 そんな怨嗟竜の魂を、ウロボロスとメリーさんは生温なまぬるい目で見詰めるだけだった。

「怨嗟竜ファントム、せめて安らかにねむれ……」

 そう言い、僕は天にいのった。

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