第1話、メリーさん初めての異世界転移?

「えっと、つまり貴方は私みたいなお化けにれているという事で良いの?」

「うん、つまりそういう事だね」

 胡散臭うさんくさそうな目で僕を見るメリーさん。対する僕は、さっき顔面をしこたま殴られたためか顔中があざだらけだ。まあ、いきなり女の子にき付いたんだからそれも仕方がないだろうけどね。

 うん、それにしてもあの時のメリーさんは……

「中々かわいかったな……」

すよ?」

「ごめんなさい」

 即座に僕は頭をげる。メリーさん、流石にその包丁ほうちょうはマズイって。まずは包丁を仕舞おうか。そう言おうとしたけど、メリーさんは中々包丁を仕舞ってくれない。

 うん、どうやらかなり警戒けいかいさせたようだね。ごめんなさい。

 さて、どうやってメリーさんの警戒を解こうか?

「それで、今さっき私の背後はいごを取ったのはどういう理屈?瞬間移動能力?」

「うん、テレポート能力には間違まちがいないけどね。僕の能力はもっとすごいよ?」

「ふーん?凄いって例えば?」

 どうやら少しもしんじていないらしい。まあ、仕方がない。そもそもメリーさんに無駄に警戒させたのは僕自身のち度だし。そしてそんな僕が自分の能力を凄いと称した所で胡散臭いという他ないだろう。

 まあ、明日も学校はやすみだし。少しくらいいかな?そう思い、僕は実際にその能力の凄さを実演じつえんしてみせる。

「じゃあ、実際にそれを見せてみようか」

「へ?」

 言った瞬間、僕達は全くの別世界べっせかいへと移動していた。それも、僕から見て右側に森が広がり左側には湖が広がっている。何時の間にいたのか?僕達の足にはきちんと靴が履いてあった。

 その光景こうけいに、メリーさんは一層驚愕していた。さもありなん、という奴だ。僕は驚いて言葉もないメリーさんに説明せつめいする。

「僕の転移能力に制限せいげんは存在しない。文字通りくつだけを足に直接転移したりもっと細かい設定を組み込んで転移も可能だ。大規模な転移であればどの時代のどの世界にも転移する事だって可能かのうだよ」

「……………………」

 メリーさんは絶句ぜっくした。しかし、この程度でおどろいてもらっては正直困る。

 正直、大規模な転移と小規模な転移を組み合わせればもっと凄い応用技おうようわざだって出来るわけだから。

「まあ、とはいえ自慢出来るような芸当げいとうではないんだけどね~」

「……なんで?」

「これは本来、僕が生まれ付き持っていた能力ちからじゃないからさ」

「へ?それは―――」

 一体どういう事?そう聞こうとしたのだろう。けど、そんな事は聞くひまもない。

 遠くから、何かの獣の咆哮ほうこうが響き渡ったからだ。その咆哮に、僕は相手が誰かを瞬時に把握する。

「な、何今の鳴き声は。聞いた事がない……」

「あいつか、なつかしいな」

 瞬間、空を飛んであいつが僕達の前へと飛来ひらいした。赤い鱗に蛇のように全体的に細長い身体シルエット。けど、胴体はそれに対して少し太く手足と翼がある。そして、首は異様に長く後頭部からは二本のつのが生えている。

 そう、獣の王にして幻想種の王。ドラゴンだった。

「ド、ドラゴンっ‼‼」

「……久しいな、ヤマトよ。そちらのむすめは初めましてかな?」

 割と気さくに声を掛けてくるドラゴン。当然だ、僕と彼は知り合いというか親しい間柄だから。端的に言って、親友しんゆうだ。

「久しぶり、ウロボロス。元気げんきだったか?こいつは今日俺と友達になったメリーさんだよ。よろしくたのむ」

「うむ、メリーか。い名前だ」

「あ、う……うん?えっと、はい」

 どうやら状況が上手く呑み込めないらしい。まあ、確かにその通りだろう。僕が初めてこいつと出会った時もそんな状態だったし。いや、懐かしい。

 まあ、ともかく今日はお互いに紹介しょうかいした方が良いだろう。

「メリーさん、こいつの名前はウロボロス。竜王ロードと呼ばれるドラゴンの王様だよ。ウロボロス、こいつの名前はメリーさん。人形にんぎょうに魂が宿った存在だね」

「あ、ど……どうも?」

「ふむ、人形に魂が宿った?云わば魔法人形とかゴーレムのようなものか?」

「ウロボロス、それは少しちがうかな?簡単に説明すれば長い年月をかけて人形が魂と自我を宿やどしたという方が正しい」

 僕の説明に、ウロボロスはほう?と感心したようなうなり声を上げた。

「それは、つまりお前が以前話していたツクモガミという存在そんざいと同じか?」

「うん、そうだね。その認識にんしきで合ってる」

「なるほどの……」

「ところで、僕達に何かよう?確か君は用事もなく縄張なわばりを出るようなドラゴンではなかった筈だけど」

「おお、そうだそうだ。わすれておったわ」

 はははっと盛大せいだいに笑うウロボロス。そして、ひとしきり笑うと僕達に説明を開始した。その内容に、僕とメリーさんはおどろいた。

 ・・・ ・・・ ・・・

 とある洞窟どうくつ。その奥底に一匹のドラゴンがよこになっていた。

 ただし、実体のある生物ではない。彼のドラゴンは青紫色をした霊体れいたいのドラゴン。

 即ち、ドラゴンのゴーストだった。

 怨嗟えんさの籠もった霊体は、まるで青紫のほむらのように揺らめいている。その周囲には数多の鬼火おにびが幽鬼のように漂っていた。その周囲には彼により食い散らかされた亡者の骨がスケルトンとなり地をっている。

 中には腐臭ふしゅうを漂わせたゾンビの姿すら見える。恐るべきその光景に、発狂せぬ者がはたしていかほどようか?

 死してなおその強すぎる怨嗟により現世にとどまり続けるドラゴンの霊。数多のアンデッドを統べる奈落ならくの底のドラゴン。

 その名も、怨嗟竜えんさりゅうファントムという―――

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