第22話 価値
龍統も考えなしに放置していたわけではない。奏呪にも行方を捜させていた。だが、呪術を行使しない限りは捕まえなくていいとも命じていた。
「後ろ盾がなかろうと、外に置いておくには相応しくありません。今度は入れ墨だけで済ますことのないようにお願いします」
龍聡は引くことなくそう言葉を重ねていた。入れ墨は確かに所有の証になるが、完全な奴隷を意味するわけではない。龍一族に近しい者という程度だ。
もちろん世間も奏呪たち自身も、もはや龍一族に従うだけの者たちと見なしているが、実際に奴隷の身分に落としているわけではない。
「奏翼が奴隷であれば納得出来るということか?」
龍統は随分と過激だなと苦笑する。いくら皇帝とはいえ、そう簡単に総ての権利を取り上げることは躊躇うものだ。それが自らの権力を盤石にするために働いてくれた者とあれば、ますますやりたくないことである。
大戦の最中から、奏呪は確かに龍家の紋を身体に刻み働いているが、その立場は官としてちゃんと保護されるものだ。人としての権利は何一つ制限を受けていない。
それを今更変えることは難しいし、何より奏呪が納得しない。たとえ奏翼だけを例外とするとしても、他はいつ同じ立場に立たされるかと不安を感じ、刃向かわれる可能性もある。
「奴隷という言葉が相応しくないのならば、皇族の物だと内外にはっきり報し召すべきですよ。入れ墨は所詮、彼らが龍家に膝を折ったという証でしかありません。あの男は明確に所有されているという証明がないことをいいことに、都を抜け出し仕事を放棄していたのですよ」
龍聡は処罰すべき理由もあるのだからと、じっと龍統を睨む。龍統はしばしその目を見つめていたが、ふっと口元を緩めた。
「案ずるでない。心配しなくても同じ奏呪が許さぬからな。奴らの方が我らよりも勝手に抜け出したことを怒っておる。奴隷にするよりも適切な処置を奴らが施すだろう。それこそ、奏翼の魂を縛るものを使ってな」
そして、奏呪を忘れて論ずるなと諭した。それに、龍聡は確かにと頷く。
「それに、奴が外にいたおかげで今回のことを早く察知出来たのだ。遊ばせていただけの価値はある」
龍統はどうなるか面白いなと、くくっと笑ってみせる。その様子に、龍聡はやはり大戦を生き抜き皇帝の地位を自ら勝ち得た男は違うなと、そう実感させられていた。
夕方、何とか街道沿いにある村へと到着していた。しかし、その村は人の気配が完全に絶えていた。
「朝のキョンシーもどきは、この村の者たちだったようだな」
村の中には入らず、蒼礼は厳しい顔をして断言する。村の中にはダニが発する呪の気が充満していた。
「馬一族を追い掛けていたのは、三十人くらいだったわよね。それ以外はこの村の中で」
「ああ。食い合いになったようだな。ダニは人間の血を糧に呪術を行使している。そのダニもまた、呪術のせいで血を求めて暴走している。つまり、人間が纏まっていればそれだけ早く蔓延してしまうんだ。その点は流行病と変わらないんだよ」
蒼礼はどうしたものかと村を見る。生きている人間がいない以上、このまま放置しておいても問題ないのだろうが、ここからダニが広がっては他に甚大な被害を出す。特にここは街道沿いだ。旅人や商人が何時通るか解らない。
「燃やしちゃうの?」
鈴華もどうしたらいいのだろうと悩んでいる。
「いや、いくら小さな村とはいえ、焼くのは問題だな。近くの山に延焼しかねない」
しかし、燃やすのは賛成できなかった。村は山間にあり、火事による被害が大きくなる可能性がある。
「ああ、そうか」
「仕方ない。朝のあの呪で、奏呪には完全に居場所を掴まれているだろう。大規模な術を行使しても問題ないか」
蒼礼は覚悟を決めて、この村丸ごとに対する術を行うことにした。
何とも難儀な旅だ。行く先々で大きな呪術を使う羽目になる。このままでは奏呪に捕まるのも時間の問題だろう。
「やっぱり、術を使うと感知されちゃうものなの?」
蒼礼の言葉に不安になるのは鈴華だ。ここで奏呪が出てくれば、間違いなくややこしくなる。単純に治癒の能力を求めていただけだが、蒼礼はやはり奏呪に追われる立場だ。連れ出すべきではなかったのだろうか。
「感知されるよ。お前らが一族に残された呪を受けた者によって監視されるのと同様だ。今までは全く使わずに生活してたから追っ手が来なかったが、ここ連日使っているんだ。今頃対処を考えているだろう」
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