第21話 学級新聞
「明日の放課後、友達のとこで学級新聞作ってくるから、帰るの少し遅くなるかも」
夕飯後、息子が予定を伝えてきた。
学校から直接行くのであれば、息子に手土産を持たせることはできない。
後日、顔を合わせた時にご挨拶しなければと友達の名前とお家の場所などを聞き取っておく。
「内容は大体決まってるから、作り始めたら早いと思うんだけど」
七坂小学校では三年生から六年生までの全クラスで、五月から十一月まで、八月を除く計6回、学級新聞を作って掲示することになっているらしい。
クラスの人数を6班で分け、内容は班ごとに自由。
B4の用紙に行事の思い出や研究発表などをまとめるのだそうだ。
年明けに各クラスで作った学級新聞の中から投票して代表を決め、さらにクラス代表新聞を昇降口に掲示して全校生徒で投票。
一番と二番の学級新聞を新聞社主催の学級新聞コンテストに応募するという流れだ。
「でも、学級新聞って学校で作るんじゃないの?」
「そっちの方が多いけど、班の子のお姉さんが写真プリントしてくれるっていうから」
手書きで制作することが一番多いが、使用できるならばパソコンなどを利用するのも自由、モノクロでもカラーでも良い。
「四年生の時、新聞の文字を切り貼りして作ったのは、もう二度とやりたくないって言ってたけど」
通称・脅迫状新聞はなかなか評判は良かったという。
内容はごく真面目な校内清掃とリサイクルについての記事だったそうだ。
新聞文字の切り貼りはリサイクルの一環だったのだろうか。
「……念のために聞くけど、今度作る新聞の内容は」
「工場見学に行った時のことメインにするから、安心して!」
校内怪談特集ではないらしい。
以前、話したことをよく考えるようになってくれたようで嬉しかった。
「工場内の写真はパンフレットを切り貼りして、みんなで撮った集合写真を入れるんだ」
「張り切ってるのね」
「うん!クラス代表になって、昇降口に貼り出されたいんだよね!」
「そうなの?貼り出されるのは学年末なんでしょう?」
もうその頃には転校している可能性が高いというのは息子も分かっているだろうけど、仲良くなった友達との記念にコンクールに出したいと……思うだろうか?この息子が?
疑念を込めて息子の方を見ると、明日の準備なのだろう、いつの間にか、家にあるカラーペンを全部出してきて、ちゃんと書けるかどうかを確認する作業をしていた。
その熱心な様子に、息子にも友情記念を欲しがる気持ちがあっても不思議はないな、と納得しようとしていたのに。
「消えたり増えたりするらしいんだよね」
「何が?」
「昇降口に貼られた学級新聞、集合写真使っていると人が」
それは学級新聞コンクール出品のために、昇降口に掲示するようになった最初期から起きていた現象らしい。
昇降口に掲示されるクラス代表学級新聞。
その中に遠足や運動会、入学式や卒業アルバム用の集合写真が使われていると、いつの間にか、映っていたはずの人がいなくなったり、見知らぬ人が増えるのだという。
掲示期間は約1週間。
その間に写真から消えてしまった人は怪我や病気をすることが多く、人が増えてしまった写真のクラスでは人影が横切ったり、奇妙な音が教室に響くという現象が起きる。
掲示期間を終えると、写真は元に戻っているそうだが
「一回、人が消えた写真を使っていた学級新聞が校内一位になったらしくって」
その学級新聞は一人の生徒が、写真から消えたままコンクールに出品され、コンクール審査期間、地方新聞社のロビーに掲示されていた。
そしてその期間中に、姿が消えた生徒は事故か病気か定かではないが、亡くなってしまったという話だった。
コンクールが終わって返却された学級新聞の写真からも、姿は消えたままだったという。
「ちょっと先になっちゃうけど、写真のプリントは3部ずつしてもらって、学級新聞に使うのと、こっちで友達に持っててもらうの、僕が保管しておくので見比べる約束なんだ」
転校後に会う約束するの初めてで楽しみなんだ、と話しながら、まずはクラス代表になれる学級新聞を作るべくはりきっている息子を見て、転校続きで申し訳ないという気持ちを抱いた。
だけど、やはり怪談から離れない息子に、知ってか知らずか巻き込まれている学級新聞作りのクラスメイトに一層強く申し訳なさを感じたのだった。
40、人が増減する学級新聞の集合写真
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