第20話 なまえを変更しますか?

 七坂小学校はゲーム機器の持ち込みは禁止されている。

 小学校であれば普通のことではあるが、ごく小さなゲーム機などは、持ってきてしまう生徒もいるらしい。

 他の小学校でも隠れて持ってくる生徒は一定数いるだろうが、七坂小学校で継続してゲーム機を持ってくる生徒はいない。

 ほぼ数日で自主的にゲーム機を持ち込まなくなるそうだ。

「それで、誰か実際に持ってきた人はいないかって探したんだけどね」

 息子は自分のスマートフォンをいじりながら話を続けた。

「あっ、もちろん、怖い話だってことは言ってないよ?三年ほど前に流行ってたゲームとかさ、誰かやってた?って聞いたんだよ」

 息子が名前を上げたゲームは一定時間ごとに世話をすることで、キャラクターに変化が出たり、世話をしない時間が長いと病気になったり、拗ねたり、時には死んでしまったりするらしい。

 なので、持ってきた生徒の一人や二人はいるんじゃないかと思ったようだ。

「だけど、ゲームの名前聞いた途端に、みんなして『ゲーム機は持ってきちゃいけないんだよ』って言うだけでさ」

 クラスメイトたちの口が固かったので、ひそかに怖い話が好きだと分かっている人たちにも聞いてみたそうだ。

 ただ、あまりゲームに興味を持っている人がおらず、自分が体験したわけではないけれど、と前置きをした上で当時、聞き齧った話を教えてくれた。

「名前が変わっちゃうんだって」

「名前?」

「うん、キャラクターの名前。だけど、本当は育ててる途中では名前は変えられないらしいんだ」

 流行っていたゲームは卵から生まれた生き物を育てるという内容で、ゲームのシステムとして一度つけた名前はそのキャラクターが成長して次の世代と交代するまで変更することができないらしい。

 なのに、七坂小学校にそのゲームを持ち込むと二、三日で名前が変わってしまうのだという。

「その名前だけは、誰も教えてくれなかったんで分からないってことなんだけど」

 しかも、なんとか次の世代に交代させて新しい名前をつけても、気がつくとまた同じ名前に変わってしまう。

 さらに気味悪がってゲームをリセットすると、それ以降ゲーム機は起動しなかったという。

「気になっちゃってさあ。そのゲームが今だとスマホのアプリで遊べるらしいんだけど」

 そう言って息子はアプリの画面を私に見せた。

「これ、ダウンロードしてもいい?」

「リセットしたり、リセットしなくても起動しなくなったら、中学校卒業するまでもうスマホは持てなくなるけど、いい?」

「……………………………………………………やめとく」

 たっぷり数分スマホがない生活と好奇心を天秤にかけた息子はアプリのダウンロードを断念した。

 スマホを与える時に、アプリを新規ダウンロードする際は確認と許可を得ること、というルールを定めた夫に心から感謝した。




39、キャラクターの名前が変わるゲーム機

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