間話4 間(はざま)の少年(前編)
学年が上がると同時に五年四組にやってきた転校生は変わっていた。
「転校先の学校で七不思議を集めてます!学校の不思議な話や怖い話を知ってる人はぜひ教えてください!」
にこにこと笑いながらの自己紹介に五年四組の生徒たちは興味を惹かれた。
五年生四クラスはこの近隣の小学校の中では人数が多いが、それでも同じ地域に生まれた時から住んでいる生徒達が大半で基本的に顔見知り。
インパクトのある自己紹介もあり、休み時間には何人もの生徒が転校生の周囲に集まっていた。
転校生の隣席だった
「オレ、皆畑っていうんだ!この七坂は七不思議、すごく多いんだよ」
「多いの?今までの学校だと十五個が最高記録なんだけど」
義翔の言葉に首を傾げた転校生に、義翔は胸を張って答える。
「七百七十七不思議くらいはあるね!」
義翔は少し調子に乗りやすい。
数えたこともないのに大きな数を答えたけれど、転校生の周りに集まっていたクラスメイトは義翔の言葉を否定しなかった。むしろ大きく頷く者もいる。
七坂小学校で不可思議な体験してる人間はそれくらい多いということだった。
義翔もその一人だ。
一年生の時、給食時間の後に歯磨き最中に歯が抜けて、うっかり流してしまいそうになったことがある。
排水口の受け皿にひっかかり排水溝に落ちる前に確保できたが、一本抜けただけのはずの歯が十数個に増えていた。
義翔がぎゃあと叫んで受け皿を放り投げたことで、宙に舞った複数の歯を何人もが目撃している。
なのに、パニックが落ち着き、拾い集めようとした時には元の一本の抜け歯しか見つからなかった。
義翔はしばらく歯磨きを嫌がって、母親に怒られたことを覚えている。
それからも半年に一回くらい、敬人は奇妙な出来事に遭遇していた。
一瞬のことであったり、後から思い返せば勘違いだったり見間違いだったのだと、思えることも多かったが。
現在の在校生が八百人弱、十人に一人が何かしらの不思議な体験していると考えれば、十学年分も集めれば七百七十七くらいはいくだろうと思ったのだ。
「七不思議の代表格ならトイレの花子さんだけど…」
しかし、やはり数字が大きすぎたのか、転校生は疑わしそうに言った。
テレビや映画になった有名な怪異を出すことで、そういう一般化した都市伝説を都合よく学校の七不思議としてカウントしているのではないかと思ったのだろう。
義翔はちょっとムッとした表情になって、クラスメイトたちに声かけた。
「トイレの怖い話、聞いたことあるやつー!」
その呼びかけに皆は互いに顔を見合わせたが、すぐ口々に自分が知っているトイレに関わる怪談を語り出した。
あっという間に4つ、トレイの怪談が集まる。
転校生は目を丸くして、すごいねぇ、と呟いた。
その表情がおかしくて、義翔と数人が明日、転校生と今話に出てきたトイレを巡ることを約束したのだった。
校内トイレの怪談巡りは一番最後に思わぬ出来事があって皆で逃げ帰ったが、次の日、顔を合わせれば4人とも楽しかった、と言い、それから、何かしらの話を集めては転校生と学校内を回ることが増えた。
一緒に回るようになったメンバーは、義翔と反対側の転校生の隣の席だった
緋奈は前から怪談が好きで、よくテレビや雑誌、ネットで拾ってきた話で盛り上がっていた。
だが、五年生になってから一緒にいるようになったグループに怖い話が苦手な子が混じるようになっていたため控えており、怖い話がしたい時に混じるようになった。
聡史は緋奈と幼馴染で、高学年になれば男子と女子は疎遠になることが多い中、互いに同性の友達といる時以外はよく一緒に行動していた。
女子の間では二人が付き合ってるのかと話題になっていたが、どちらかというと家族ぐるみの付き合いが長すぎて兄妹のような感覚であるようだ。
怖い話が好きなのに怖がりの末っ子気質の緋奈を長男気質の聡史が放っておけず、探検に付き合っているようだった。
転校生は物怖じせず誰とでも気軽に話し、次々と七坂小学校の七百七十七怪談を集めていく。
この学校にすでに四年間通った義翔たちが知らない話もたくさんあって、七百七十七と言い出した義翔でさえ吃驚していた。
こんなに多くのことが七坂小学校で起きているのかと、転校生が可視化していく作業は秘密を暴いていくようでワクワクした。
そしてある程度の数を集めると四人で検証に出かける。
時には情報提供者や他のクラスメイトが参加することもあったが、中核になっていたのは転校生と義翔たち三人だった。
この活動を始めてから、義翔は自分が遭遇したけど忘れていた出来事をよく思い出すようになっていた。
小運動場で拾った半硬貨のことだったり、どこかの教室で扉が開いたり閉まったりしている光景だったり。
それを話せば転校生は喜んでくれて、確認しようと誘ってくれる。
確認の時に新しい怖いことに会う回数も増えたが、その大半は転校生と一緒で、またそれも喜んでくれる。
その時は心臓が縮みあがるような恐怖を覚え、でも次の瞬間、不謹慎にも楽しくてはしゃぎ回りたくなるような気持ち。
そういう気持ちを共有できる友達は初めてで、義翔は転校生と一緒にいるのが大好きになっていった。
緋奈も同じように楽しんでいるようだった。
おしゃれの話やかっこいい男子や先生の話より怖い話が好きなのに、友人に嫌われたくなくて押し込めていたのが解放された気分なのだろう。
男子の中に一人女子が混じっていても大して気にしていないようだった。
義翔のように毎日ではないが、放課後などは女子の友達より義翔らと一緒にいる日が増えてきたように思えた。
聡史はほぼ転校生と義翔と共に過ごしながらも、少しだけ距離をおいているように見えた。
時折、何か言いたそうにしながらも三人の行動を妨げることなく、はしゃぎまわる三人の足元に落とし穴はないか、一歩引いて見守っている。
同学年ではあったが、どこか三人の面倒を見るために付き合っているような部分があった。
そして半月も過ぎた頃には4人は怖い話探検グループとして生徒の間で少し有名になっていた。
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