第16話 校内放送ラジオのひと文字投書

 七坂小学校では週に一度、給食の時間に放送部によるラジオ放送がある。

 ラジオ放送といっても生放送ではなく、パソコンに録音したものを先生が流しているそうだ。

 1週間の行事予定、校長先生のお話、児童会や先生からのお知らせと投書箱に届いた投書やリクエストに応えるコーナーが主な番組構成になっている。

 息子はラジオ放送のことを知ってから、毎週怖い話について投書しているが採用されたことはない。


 この放送、旧校舎の頃は生放送だったらしい。

 放送当番の子が二人、先生に見守られながら放送していたという。

 その頃はラジオを聴く人も多く、高校生や大学生に深夜のラジオ番組が人気でハガキをよく採用されるハガキ職人という言葉も生まれたりした。

 そういうブームを真似していた校内ラジオ放送は花形扱いで、今よりも投書と音楽リクエストが中心の構成になっていた。

 生徒たちもいろいろ工夫を凝らした投書をしていたが、ある時、奇妙な投書が混じり始めた。

 校内ラジオ放送用に用意された投書紙は、わら半紙にクラスと名前、そして百字ほどのマス目が刷られていたが、問題の当初はマス目を無視してひらがなが一文字、赤いペンで書かれていた。

 最初は単なるいたずらだと思われた。

 生徒からの投書はお遊び半分のものも多く、おりしもオカルトブームもあり霊能者がテレビ番組に出ていたりしたため、そういういたずらも頻繁にあったからだ。

 当時の生徒数は今の3倍近く。

 犯人探しは容易ではなかったし、騒ぎにすると便乗する生徒も増えるかもしれないということで、しばし静観することになっていた。

 だが続けて五日、文字は違うが同じような投書があり、気味悪がった放送当番がこういう投書はしないように放送で呼びかけてしまった。

 その次の日。

 一文字投書について触れた放送当番の生徒が交通事故で亡くなった。

 校内は生徒の事故死に騒然とし、放送活動もしばらく停止とされた。

 放送部の顧問をしていた教師は弔問や放送部の生徒のケアに勤めていたが、投書箱を放置していたことに気づいて、確認することにした。

 亡くなった子へのお悔やみの投書や放送の再開についての質問などがある中、あの一文字投書があった。

 亡くなった生徒が気にしていたことを思い出し、不愉快な気持ちでそれを抜き取った教師はふと何かがひっかかり、取ってあった一文字投書を並べた。

 合計7枚になった7つの文字。

 届いた順番は違う。

 けれど、その7文字を並べ替えると、亡くなった生徒の名前になることに、顧問教師はその時はじめて気がついたのだった。


「……っていう話があってね」

 息子は一枚の古びたわら半紙をじっと見つめながら言った。

「数年おきに同じようなことがあったとかなかったとか、そこはあやふやなんだけど」

 現在、放送部の顧問をしている先生に息子は呼び出され、この話と古い備品の残りだという昔の投書紙一枚引き換えに、怖い話に関する投書はもうしないように注意されたそうだ。

 ごめんなさい、と頭を下げた息子は、素直に夏休み直前の聴きたい人だけ残って聴ける終業式後の特別放送『夏のホラー特集』を楽しみにするそうだが。

「この投書紙使って投書したら怒られるかな?使っちゃうのもったいないかな?」

 根本的には懲りてない様子に、どう道徳的指導を行うべきか、今日も母を悩ましてくれる。



31、死を指名するひと文字投書

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