第15話 扉の隙間

「あら」

 ふと気づくとリビング収納の扉が少し開いていた。

 ここは社宅扱いで借りている中古マンションだ。

 壁紙や床、キッチンはリフォームもされていて住みやすい家だが、こういう作り付けの物は少し立て付けが悪くなっているのかもしれない。

 少し考えて、扉の取手にゴムを掛けておくことにした。

「開戸だったら、そういう手もあるのか〜」

 ちょうどよい硬さのゴムをひっかけて扉が自然に開かないようにしたところに息子がやってきた。

「おかえりなさい。ん?扉のこと?」

「うん、そう。教室の扉なんだけど」


 それに気づいたのは、廊下側から二番目の列、最後尾の席に座っている生徒だった。

 教室後ろの扉が少しだけ開いている。

 このクラスの人数は35人のため、六席かける六列で廊下側の列だけ一人少ない。

 なので一番扉に近い斜め前の生徒は引き戸の隙間に気づいていないようだった。

 手を伸ばし、廊下側最後尾の生徒の肘をつつき、隙間を示す。

 振り返った生徒はそのゼスチャーにすぐ気づいて扉を閉めた。

 そうして二人の行動に特に気づいたものはなく、授業はつつがなく進む、はずだった。

 すっ、と風が頬を撫で、後ろを振り返った生徒は先ほど閉めたはずの扉が、また開いているのを見つけた。

 勢いがついて反動でまた隙間ができたんだろうか?

 そう思って再び後ろ手で扉を閉める。

 だが三度目。

 数分後、また隙間が開いた。

 扉のレールがおかしくなっているのだろうかと腹正しさ半分、扉の不具合ではない原因があるんじゃないかと薄気味悪く感じるのが半分。

 今度は振り返ってしっかり締めようと扉の取手に手をかけた時。

 隙間から自分を見上げる顔に気がついた。

 ガタタッと音を立てて椅子から飛び上がった二人の生徒に、教室中の視線が集まったが最後尾の生徒と最初に隙間に気づいた生徒は同じものを見たのだと、泣きそうな顔を見合わせた。

「どうした?」

 そう問いかけてくる教師に、隙間が、顔が、と半泣きになりながら今見たものを話すと、教師は困った表情になって扉を閉めると鍵を掛けてしまった。

「これで開かないだろう。じゃあ続きするぞ」

 そういう問題じゃない、と二人は訴えたが取り合ってもらえず。

「同じような、開いたり閉じたりする理科準備室のドアは先生が邪魔だって、しばらくドアストッパーで開けたまましてたけど、そっちの方がいいか?」

 そう聞かれて、開かれているよりはましだと口を閉じたのだった。


「ってのが五年二組の話でさ。うちのクラスだったら、喜んでその席に代わったげるんだけど」

 怪談話に詳しいと校内で有名になってきているらしく、相談を受けた息子はとりあえず盛り塩などは勧めたが出入りしているうちに蹴り飛ばしそうでもあって、他に簡単な方法はないかと考えていたそうだ。

「一応、レール点検もしてもらって、その日以降、勝手に開くことはないっぽいけど、授業中は鍵閉めてるんだって」

「引き戸だと難しいね。理科準備室の方は今は閉めてるの?」

「僕が見た時は閉まってたけど……授業じゃない時はどうしてるのかな?」

 今度ドアストッパー確認しておこう!と息子は予定を立てていた。

 それにしても七百七十七不思議もあると先生たちも慣れてしまうんだなぁと感心したのだった。


28、教室の隙間から覗く顔

29、ひとりでに開閉する理科準備室の扉

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