第14話 詰まるもの
息子の持ち帰ってきたタオルがひどく汚れていた。
べっとりとした水垢と黒カビのようなもの、臭いもひどい。
ビニール袋に入れて持って帰ってきてくれたが、捨てた方が良さそうだ。
「どこの掃除したの、これ?」
「筆洗いひっくり返した子がいて僕と何人かの足が汚れちゃったんだよ」
それを拭いたならもっとカラフルになってるのでは?と思ったことが顔に出てたのだろう。
息子はその後、と言った。
「上履きと靴下を洗っちゃおうってなって、洗面所使ったら、排水溝が詰まっちゃったんだよ」
水流れなくなっちゃってさあ、棒使ったり、スッポン借りたりして大変だった!と話しながら、靴下と上履きも追加で差し出してきた。
なるほど、カラフルだ。
すぐに洗ったからか、だいぶ薄いけど。
洗い直して明日までに乾かさないと、と動き出すと息子も後をついてきた。
「僕が持ってたタオルが一番古かったから、排水溝の中、拭うのに使ったんだ。……ごめんね?」
元々美術の筆やパレットを洗う時のために持って行っていた使い古しのタオルだ。
気にしなくていいよ、というとちょっとホッとした顔になっていた。
「今回の掃除は普通のゴミとかデロデロだけだから、捨てたら大丈夫だと思うんだけど」
「……普通のゴミじゃないこともあるの?」
「聞いた話だと」
七坂小学校の校舎内は各階に二箇所洗面所がある。
7〜8人が一度に使うことができ、歯磨きや手洗いは譲り合って行うことになっていた。
いつの頃の話かは定かではない。
ある一年生は数日前から抜けそうになっている歯が気になってしかたなかった。
ぐらぐらするのが気持ち悪くて、何度も舌で触ったりしていた。
いつ抜けるのか気が気でないので、給食後の歯磨きもさぼりたいくらいだったが全員がちゃんと歯磨きをするかは先生が見張っている。
こうなったらさっさと終わらせてしまおうと、しゃかしゃかと歯ブラシを動かして、勢いよく濯いで水を吐き出した。
すると、間の悪いことにあっけなく歯が抜け、水と一緒に口の外に転がり出てしまった。
他の生徒も同じように水道を使っていたせいで、水の流れがそれなりにあり、歯は一年生の手をすり抜け、排水溝へと向かっていった。
少し焦って自分の歯を追いかけたが、排水口のゴミを止める受け皿が詰まっていたのか、排水口とその周りは軽く水没しており、歯も水の中にあってよく見えなかった。
指で排水口を探ると何か硬いものが指に触る。
抜けた歯が排水口にあるのだと思って、歯が抜けた一年生は排水口の受け皿をそのまま引き抜いた。
一気に排水されていく水と中身が露わになる直径10センチほどの受け皿。
3センチほどの深さのあるそこには白い抜けた歯があった。
十数個の抜けた歯がストレーナーを詰まらせていた。
目にしたその光景が飲み込めず、一瞬の後にぎゃあ!と叫んで一年生は手にした受け皿を放り出した。
「で、散らばった歯を見て先生を呼びに行ったんだけど、先生が見つけた歯は一個だけだったんだって」
「その子しか見てないなら、泡か何かを見間違えたとかない?」
「受け皿と一緒に歯が散らばって落ちるのは何人か見てたみたいだし、歯はたしかにあったんだと思うよ。増えるのも消えるのもすぐだったけど」
何か害があったわけではないけど、少し気味が悪い話だ。
小学校一年生でそんな体験をするなんて、歯磨きがトラウマになってなかったらいいけど。
「でも一本しか抜けてなかったはずなのに、そんなにたくさんの抜け歯みちゃったら、自分の口の中、確認しちゃうよねぇ」
大丈夫だったのかな?と笑う息子の歯は、あと一本、永久歯が生えていない。
抜けそうになったら、その洗面台に通って歯を磨きそうだと思った。
27、排水口に詰まった歯
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