第9話 雨の日の体育館
朝から降っていた雨は夜になってもまだ続いていた。
家の中の空気も湿り気を帯びている。
「体育館の中は、もーっとムシムシむわむわしてたよ」
ご飯を口に運びながら息子が話し出した。
「運動場で体育だった全部のクラスが体育館になったから、狭くって」
聞けば、六年生と五年生、三年生の各一クラスが体育館を共同で使うことになったらしい。
体育館はバスケットコートが二面とれて、奥に舞台がある。
各式が行われたり、演劇発表ができる舞台だ。
「六年生がバスケして、五年生はマットと梯子運動、三年生は跳び箱してたんだけど」
ちょっと息苦しいな、と感じたのは授業が半分過ぎたくらいだったらしい。
五年生はマットの連続技というものに挑戦するらしく、失敗したら交代、という形だった。
通常ならできた生徒とできなかった生徒に別れ、それぞれ練習をするらしいが、スペースがなかったのでそういうことになった。
壁に設置された懸垂などを行う梯子も数が限られていたため、幾人かは順番が来るまで壁際で待機していた。
息子もその一人で、体育館全体をぼんやり眺めながら、体育館に関する不思議は何があったかと思い出していた。
だが、妙な息苦しさで考えがまとまらない。
雨の日、そして通常より多い人数で運動しているせいかと思ったが、なんだか少し違うように感じる。
昔、買い物に出掛けて満員のバスに乗った時のような、息苦しさ。
通常よりは使用クラスが多いとは言え、時には全校生徒が集まることもある体育館なのに?
そう思って、訝しげに先ほどよりしっかりと体育館の中を見渡そうとした時。
「あんまり見ない方がいいぞ。今だけだから気にしないのが一番だ」
すぐ近くから声がかけられた。
「えっ?」
「戦争中に避難所になったことがあるんだよ。もちろん、この体育館じゃないけど、七坂小学校の体育館ってだけで集まってくるんだ」
「寄ってくるって……」
「幽霊とか、そういうの」
中央を分けるボール避けのネット越し、同じように壁際待機していた男子生徒がそう告げた。
「気にしなかったら、そのうち消えるから」
そういうと、息子が応える前に彼はバスケットの練習に戻ってしまったそうだ。
「体育館に増える人影!聞いたことはあったけど、見てる人がいるなんて思わなかった!」
結局、僕には見えなかったんだけどね、と肩をすくめる。
授業後、クラスメイトに確認すると、全く何も感じなかったという意見と息子と同じく息苦しさは感じてたという意見に分かれたそうだ。
クラスでは見えた子はいなかったらしく。
「次、あの人に会えたら、色々聞いてみたい!
三年生の方で、跳び箱の中から覗く目とかも見えてたのか知りたい!」
興奮気味に話す息子があまりにも楽しげで、迷惑にならないようにするのよ?と忠告することしかできなかった。
18、体育館に増える人影
19、跳び箱の中から覗く目
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