第8話 11014 1052167 33414

「お母さんはポケベルって使ってた?」

 そう聞かれて、う〜んと記憶を辿る。

 もちろん、名前は知っているし見たこともあるけれど。

「おじいちゃんが仕事で使っているのは見てたけど、お母さんは触らせてもらったことはないわ」

 ポケベル全盛期、ちょうど私は今の息子と同じくらいの年だった。

 父が家にいる時、時折ピーピーと音がして職場に折り返しで電話をかけていたのは覚えている。

 従姉妹のお姉ちゃんが恋人とやりとりしていると言って、暗号のような数字を見せてくれたが特に覚えてはいない。

「学校のどこかで、ポケベルが落ちたままになってるって話を教えてもらって」

 今日の放課後はそれを探していたそうだ。

 そのポケベルは昔、七坂小学校で教師をしていた男性が恋人から渡されていたものだったそうだが、あまりにも頻繁に連絡がくるので嫌気がさし、投げ捨ててしまったらしい。

 子供の手でも届かない隙間に入り込んでしまったポケベルは、今でも決まった時間に鳴るのだという。

「決まった時間っていうのも夕方5時ごろだっていうし、見つけられたら音が鳴る瞬間が見られるかなって」

 いくつかのそのポケベルに関する証言を整理して、おそらく校舎の裏側と呼ばれている排水管や空調のダクトなどが固まっているあたりではないかという結論が出た。

 教科準備室のある校舎の向かいの壁にあたり、投げられてひっかかっているというのもありえる、ということになって4人でその配管が見える廊下に陣取り、じっと耳をすませる。

 まだ陽が落ちるまでは間があり、配管の隙間隙間を指差しては、あのあたりの影がポケベルじゃないか、あれはただの枯葉だと思う、と会話していると、かすかにブゥー……ン、ブゥー……ンとバイブレーションの振動音のようなものが聴こえる。

 わあっ!と盛り上がって音の出どころを探したけれど、配管に反響しているのかここだという場所は特定できず、1、2分で音は止んでしまった。

「音が鳴ったってだけで、不思議な話だから満足だけど」

「そうよね。随分、長持ちの電池だわ」

「サービスも終了してるのに、どこから電波飛ばしてるんだろうね?」

 幽霊って不思議とつぶやく息子に、疑問はそこなのかと思う。

「そもそも、そのポケベルが幽霊なんじゃない?」

「ポケベルを幽霊が動かしてるんじゃなくて、ポケベルが幽霊!」

 付喪神っていうんでしょう?と覚えた知識を披露すれば、私よりよっぽどオカルトに造形の深い息子は嬉しそうに頷く。

 人の気持ちを受け止め続けていた道具なら、百年待たなくても妖怪になるかもね、と話し、

「持ち主と早く会えるといいね」

 そう言って笑った。


17、決まった時間に鳴るポケベル

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