第2話 トイレの◯◯さん
学校から帰ったきた息子はただいまも言わず、一目散にトイレに駆けていった。
そうとう我慢していたらしい。
「クラスの子から聞いてトイレ巡りしてたらうっかり行き損ねて」
すっきりした顔をして息子が通り抜けたリビングに戻ってきた。
先ほど放り投げていったランドセルを目で示すと、罰の悪そうな顔をして拾い上げる。
「今までの学校でもあったけど、やっぱりトイレに誰かいるって話、多くってさ」
転校初日の自己紹介で、息子はオカルト話、特に七不思議が好きだと公言したらしい。
さすが転校慣れしていて度胸がある。
そして七坂小学校は七百七十七不思議を誇る学校。
クラスメイトたちは競うように自分の知っている不思議話を教えてくれているのだそうだ。
今日は今までの学校の七不思議に、だいたいトイレの花子さんに類似した話が入っていると言ったら、七坂小学校にもやはり該当するトイレの怪異があると教えられた。
「だけど、4人とも別の場所を言うから、じゃあ行ってみようかってなって」
放課後に予定がない数人で噂のトイレを見て回ることにしたのだという。
一番目は3階の北側、女子トイレの三番目の個室。
3回ノックして「花子さん遊びましょう」と声をかけると声が聞こえる、というある意味とてもスタンダードな『トイレの花子さん』だ。
同行した女子がノックし、入口で男子たちが見守っていたが、「遊びましょう」と声をかけるのは怖いとその女子が言ったのでそれで終わり。ノックに返事はなかった。
二番目は特別教室が集まった校舎の3階。奥の個室で用を足し、洗面の鏡を見ると何かが映るというもの。でも鍵が壊れているのか開かず断念。
三番目は1階の教職員用トイレだが、夜中に使用するとずぶ濡れの男が出てくるというもので、時間的に合わないので入り口だけ見て終わった。
四番目は体育館に一番近い一階のトイレだ。
ここには必ず一箇所、トイレットペーパーがない個室があり、そこで用を足した後に「紙がない!」と言うと「カミやろうか?」という声が聞こえてきて「欲しい」というと長い黒髪が天井から落ちてくるそうだ。
「正直、髪の毛で拭かれたらどうするのかなって思ったんだけど」
息子はちょうど尿意を覚えていたため、この怪異に挑戦することにしたという。
順番に個室を開けてトイレットペーパーがあるか確かめていく。
一番目はある。二番目もある。閉まっていた三番目を念のためノックして、開こうとした時。
『……遊ばないの…?』
ぼそりとかすれた女の子の声が中から聞こえた。
小さな聞き取りづらい声だったのに、その場にいた全員が聞こえたらしく、一瞬凍りついた後、一斉にそのトイレから逃げ出したそうだ。
息子はそのまま走り続け、家まで帰ってトイレに飛び込んだのだ。
「まさか花子さんが憑いてきてたとは思わなかった」
本当に何かが起きるとも思っていなかったし、とあっけらかんとした表情で息子は言った。
「……ねえ、それ本当に大丈夫なの?」
いままでの学校で七不思議集めはしていたが、実際に遭遇したと聞いたことはない。
なのに七坂小学校ではもう2回目だ。
「危険がありそうな話は実行したりしないよ」
その答えを信用していいのかどうか。
霊感などというものに縁がない私には判断がつかなかった。
8、3階の女子トイレ3番目の花子さん
9、特別教室棟のトイレの鏡に映る影
10、教職員用トイレのずぶ濡れの男
11、体育館近くのトイレの落ちてくる黒髪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます