第4話 運動場に埋まっていたもの

 学校から帰ってすぐ、息子は不機嫌そうに言った。

「残念なんだけど、七百七十七不思議は現役じゃないのも含まれてるんだって」

「あら、累計だったの」

 それにしたって多いなあとは思うが。

「古い校舎がなくなって消えたのとか、物が撤去されちゃったら出なくなったのとか」

「例えば?」

「社会の時間に先生が話してくれたんだけどね」

 この間の小運動場ではない、大きな運動場の話らしい。

 昭和の終わり頃のこと。

 運動会が近くなり、放課後にも大縄跳びやリレーのバトン渡しなど自主練習を行う生徒が増えていた。

 当時の生徒数は現在の3倍近く、練習の場所取りは大変だった。

 喧嘩などが起きないように教師が見て回っては調整していたようだが、過密状態の運動場である場所にだけ何故か生徒達が近寄らなかった。

 教師は不思議に思い、ちょうど場所がないと訴えにきた生徒に、あそこが空いてるぞ、と指差した。

 だが、全員が不安そうな顔で黙り込んでしまう。

 塀寄りの端だが練習するのに問題があるとも思えず、どうした、と聞いてみると。

「あそこにいくとお爺さんが怒ってくる」

 そう子供たちは声を揃えて言った。お爺さんというのは教師か用務員かと尋ねたが、着物姿の知らないお爺さんだという。

 近所の老人でも来たのかと不審に思った教師はその場所に近づいた。

 運動場の一角だ。隠れたり出入りする場所もない。

 塀の際まで歩き誰もいないと確認して振り返ると、そこにさっきまでいなかったはずの老人が立っていた。

 薄汚れた風態の老人は教師をじっと見ると地面を指差し口を開いた。

『調べろ』

 と、音ではない声が教師の耳に響き、次の瞬間、もう老人は消えていた。

 同じものを見たのだろう生徒が叫び声をあげ、騒ぎは大きくなってしまい。

「念の為に調査したら不発弾が出てきたんだって」

 不発弾は無事撤去され、それから運動場にお爺さんは現れていないという。


 13、忠告する老人

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