第41話・絆
「フレアとストゥーは左右から! 龍雅は前をキープ」
「うん!」「分かったのです!」「了解!」
ゼファーの指示通りに動き回る。
長女の火球がニーグの右翼に直撃。次女の氷は反対の翼へぶち当たる。
攻撃そのものにあまり威力は無いとはいえ、虫に刺されれば人間だって
そして彼女達が作ってくれた隙に、龍雅の回し蹴りが黒龍の
「うっぐぅ!?」
強い力を持つはずのニーグも、ちょこまかとターゲットが分散されれば自分の意志通りに動くのは難しい。
ダメージ稼ぎの龍雅。
全体の指示出しとサポートのゼファー。
この中でも三女が一番戦闘に貢献している。
彼女の指揮がなければここまで上手くいっていないだろう。
母親譲りの洞察力はこんなところでも発揮されていた。
(ここまでは上手くいってる! いける!)
「リョウガ、直進して!!」
「おうっ!」
幾度も受けた重力攻撃を受けながら相手の腹に右ストレートを放り込む。
敵の得意技の圧力を使った攻撃も、最早苦にならない。そうして繰り出す攻撃は確実に黒竜の体力を削っていた。
「くぬぐぅ!! ごみ虫らめが!」
「虫じゃないもん! にんげんだもん!」
積み重なった痛みというストレスによって大技を繰り出そうと口を大きく開いたところに、フレアの
「子供が親に逆らうかぁ!」
「親らしいことを何もせずに、私達の親を語るなです!」
宙を舞っているフレアの着地を狩ろうと巨大な右爪が襲う。
しかし、その攻撃はストゥーリアの水流によって押し返された。
「強者であるドラゴンが人間の振りをするなどぉ!」
「確かにボク達はドラゴン。でも、心は人間。決して振りなんかじゃない!」
ゼファーが強風を呼び、姉達を引き寄せる。
次の瞬間には、長女と次女が居た場所は重力によって地面が割れていた。
「人間。人間人間人間人間っ!!
「最強なんて肩書に意味は無い! いつまで過去の栄光に
苦し紛れに放たれた尻尾の振り回しを拳で対抗する。
そして押し勝った勢いそのままに、ボディブローをお見舞いした。
「ぬぅ!?」
デカブツが
「お前がどう思うのは勝手だ! でもお前の身勝手をこっちに押し付けるな!」
「知ったことか!」
竜が口を大きく開く。
先程初動をフレアに潰された光の奔流をまた撃とうとしているようだ。
「それはもう見た」
すかさず風に乗った子供達がニーグの頭上から飛び蹴りをお見舞いする。
「「「!?」」」
が、耐えた。
妨害されると分かっているなら耐えることも可能、と言わんばかりに。
相手の口に光が集まり始める。
決して綺麗とは言えない憎しみの光が。
「こっちを忘れる、なぁ!!」
相手の隙をつき、足のバネを効かせ全力で真上に跳躍。
そして子供達に気を取られているニーグの喉元を思い切り
「ぐふぁ!?」
どうやら今の一撃が相当こたえたのか、ニーグはうなだれながら手前に転倒した。
倒れた際の
おまけに口からは人間と同じ赤色の血を出している。いくら馬鹿にしていても人間との接点は少なからずあるらしい。
「やった! たおした!」
「でかい顔していても所詮はこの程度なのです。調子に乗った報いなのです」
「みんな頑張った」
目的を達成し嬉しそうにはしゃぐ様子はまさに子供だ。
しかしながら、龍雅も少女達の輪の中に混ざりたい気持ちで一杯だった。
(やった、やったんだ俺達!)
苦難をまた1つ乗り越えた。
これで元の平和で騒がしい日常に戻れる。
そう思った矢先だった。
「……我の負けだ」
黒龍が覇気の無い声で語りかけてきた。
「まさか
「とうぜんだよ。だってそっちは1人だもん!」
「1人か……。だが、ドラゴンは群れぬ。強き存在は決して仲間を作らぬのだ」
「くだらない。自分がそう思い込んでるだけ」
「だが、我はそうやって生きてきた。今更考えは変えられぬ」
「なら何時までもそうしていると良いのです」
次々と
ニーグにやられたことを考えれば当然ともいえるが。
「おい」
子供達との応酬に割り込むように龍雅が口を挟む。
「何だ」
「これに
「……いいだろう」
黒竜が小さく首を縦に振る。
「こいつらが望むのならたまにの面会も許してやる」
「そんなこと1000年経ってもあり得ないのです」
思わず口から漏れた慈悲。
しかし、ストゥーリアの発言によってあっさりと否定された。
そして姉妹達も同調するように頷いている。
「随分と嫌われたものだな」
「当然。自分の胸に手を当てて考えて」
「ほんとほんと」
(そりゃそうか。暴力に走る限りは俺も会わせたくないしな)
「終わったし帰ろうか。疲れたろみんな」
話は終わったとばかりに龍雅は切り上げを提案する。
それには少女達も賛成だったようで、すぐさま彼の周りに集まった。
「ボク、ビーフストロガノフ食べたい」
「私もなのです! 帰ったら作るのです、人間!」
「プリンも!」
「はいはい、帰ったらな」
彼女達の要望を受け入れながら、ドラゴンの姿になるべく服を脱ぎ始めた。
そして、Tシャツが龍雅の目を覆ったその時だった。
「甘いな」
どす黒い悪意の塊と共に極細の光が放たれ、龍雅の体をいともたやすく貫通した。
「――ぅ!?」
「りょうが!」「龍雅!」「リョウガ!」
脳が焦げ付くような感覚と鋭い痛み。
まるでマグマのような灼熱が胸の内から込み上げてきた。
また次の瞬間には、鉄の味が口いっぱいに広がった。
「覚えておけ下等生物よ」
「いったい!? はな、して!」
一番ニーグの近くにいたフレアを抱きながら、黒龍が立ち上がる。
痛みで震える視界の先でも、邪気にまみれた悪の姿がはっきりと分かった。
「どんな手を使おうが、必ず勝つからこそ強者なのだ」
ニーグの目はまだまだ死んでいなかった。
そしてその瞳は、泥のように汚れていた。
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