第2話・林道家への帰還
セレスの異能により、龍雅達一行はあっという間に林道家へと辿り着いた。
一瞬で目の前の風景が変わる体験はこれで2度目であるものの、不思議な力の凄さに相変わらず気持ちがついてこなかった
(「中々立派な家じゃないですか」)
頭の中のセレスが嬉しそうに言う。
龍雅からすればごく普通の一軒家なのだが、改めて褒められると嬉しいものがある。
「小さな家ですね」
だが、隣で立つ青髪は良く思っていないようだった。
(ん?)
ストゥーリアのズボンと上着の隙間から
それもぴょこぴょこと左右に揺れている。
犬や猫とは違って毛が無いのでモフモフ感は無いが、上下左右に動く尾は見ているだけでやたらと癒された。
(「何か可愛いな」)
(「この子達はまだ力の使い方が上手くないんですよねー。ちょっと興奮するとすぐにボロが出ます」)
(「ちゃんと教えてやれよ」)
(「こういうのは慣れですから。長い目で見ることにしています」)
(「そんなもんか」)
セレスの親らしい発言を聞き流し、我が家へと入っていく龍雅。
散々隣で悪態を吐いていたストゥーリアも、軽い足取りで付いてきていた。
「悪い、開けてくれるか? 両手が塞がってて」
「仕方ないですね、人間」
ドアの開き方ぐらいは知っているのか、背伸びをしたストゥーリアが玄関の取っ手を掴み開く。
(「鍵をかけていないとは不用心ですね」)
(「まあ死ぬ気だったからな」)
(「そういえばそうでしたね。すっかり忘れてました」)
(「無理やり阻止した張本人のくせによく言う」)
足の裏の砂を軽く払い、龍雅は家に上がった。
真っ暗な我が家は自分の心を映し出しているようで、あまり良い気はしなかった。
廊下の電気を付け、そのまま母親の寝室へと歩を進める。
そして中に入り、ダブルベッドの上へ2人の少女を下ろした。
まだ子供というだけあって、大きさは特に問題ないようだ。
「お前も今日は寝ろ」
「人間の作った寝床で寝るのは不本意ですが、そこまで言うなら仕方ないのです」
(素直じゃないやつ)
最大級に尻尾をフリフリさせた青髪がフレアの横へと並ぶ。
ふかふかのベッドが心地良いのか、頬が緩んでいるのがはっきりと分かった。
「んじゃお休み」
「お休みなのです」
寝室の電気を消し、今度はリビングに向かう。
部屋に入るなり、龍雅はソファに腰を下ろすと同時に重い息を吐いた。
(「お疲れ様です」)
(「本当にな。まさかまたここに戻ってくるとはな」)
闇が支配する室内でそっと視線を横にスライドさせる。
目線の先には天井の縁から吊り下げられたロープと転がった踏み台。
龍雅が転移する直前まで使用していたものだ。
明かりが付いていないのにも関わらず、それらは鮮明に視界に映った。
(「ここで死のうとしたのですか?」)
「ああ」
セレスとは心の中で会話出来るものの敢えて口に出した。
理由は単純。
こちらの方が話しやすかったからだ。
(「何故自殺を?」)
「お前には関係無いだろ」
(「……それはそうですね。すみません」)
セレスが申し訳なさそうに謝罪する。
今日会ったばかりの相手に踏み込み過ぎだと感じたのだろう。
悪化してしまった空気に耐えきれず、龍雅は異なる話題を切り出した。
「ところで何で俺だったんだ?」
(「それはどうしてリョウガを選んで転移させたのかということですか」)
「ああ」
(「理由なんてありませんよ。命を無意味に捨てようとしている人間ならば誰でも良かった。探知した際にたまたまリョウガが引っ掛かっただけです」)
「完全に偶然だったんだな」
つまり数分早く自殺していればこんなことにはならなかった、ということである。
死を望んでいる龍雅にとっては知りたくなかった事実だ。
「1人で何をぶつぶつ喋ってるの?」
「うわぁ!?」
突然背後から声を掛けられ甲高い声が出た。
慌てて振り替えると、緑髪の少女が驚いた顔でこちらを見ていた。
「ビックリ。そんなに驚くとは」
「夜中にいきなり声を掛けられたら誰だってこうなるわ!」
「それもそうか。そういうところは人間もドラゴンも同じだね」
不思議な納得をしながら彼女は龍雅の隣へと座った。
そして、じっと龍雅の目を見てきた。
「な、何?」
「別に。何処からどう見ても人間だなって」
「そりゃあ人間だからな」
掴み所のない子だ。
ほんの少々言葉を交わしただけで、龍雅はそう思った。
見た目は他の2人に負けず劣らず美しい。
何処となく感じるおっとりとした雰囲気が特徴的だった。
(「彼女はゼファー。生き物への探究心が高く、また聡明な子です」)
(「そうは見えんがな」)
「ところで何でここに? 寝てたんじゃないのか?」
「寝相の悪い馬鹿フレアの裏拳で叩き起こされた。折角寝たところだったのに」
「それは災難だったな……」
(って、え?)
「まさかお前起きてたのか!?」
「うん。だから大体の事情は知ってる」
言うや否や、ゼファーは右手の手のひらを静かに龍雅の胸へと当てた。
「ママはここで生きてるんだね」
何かを感じ取ったのか、龍雅が答えを返す前に彼女は小さな笑みを作った。
「あ、うん」
「そっか。安心した」
満足したのかゼファーは龍雅から手を引き立ち上がる。
「夜も遅いし寝るね。おやすみなさい」
彼女は一方的に告げるなりリビングから出ていった。
どうやら本当にセレスのことが気になっただけのようだ。
(「良く分かんない子だったなぁ」)
(「これから理解していけばいいんですよ」)
(「これからねぇ」)
無理やり背負わされた荷物の重さを意識しただけで、とてつもなく重い溜息が出た。
結局億劫な気持ちに耐えきれず、自然と体は横になってしまっていた。
(何でこうなったんだろう)
ここ最近の自分の行動を振り返ろうとする龍雅。
だが、数時間前まで思い出したところで瞼が下がり始めてしまい、あっという間に夢の中へと落ちていった。
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